こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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こおりのほしのねむりひめ

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もし、折守おりかみ市の人口が恒常的に増え続ける形になれば、いずれはさらに生活圏を拡大していかなければならなくなるだろう。

ひめ達、バディのAIではそのシミュレーションも既に行われていた。ひめを合わせた十四体のバディのAIを連携させて綿密に並列処理を行った結果得られたシミュレーションなので、かなりの精度だと考えられている。

それによれば、やはり現状のままでは今度は生活空間が不足し、人口密度が急激に上がりそれに比して生活環境が悪化。過大なストレスが掛かり精神衛生上無視できない状況となり、人心が荒れ、現在の平穏で淡々とした日常が維持できなくなる可能性があった。

それを根本的に解決するにはいずれ地上を活用することも視野に入れて開発を進めなければならないだろう。

これについても既に折守おりかみ市の人々とともに検討に入っている。

バディであるひめは、とにかく人間の安寧を第一に考えていた。

『皆さんが幸せに生きられる為に』

それぞれの家を繋ぐ通路を、学舎に向かう為に歩く子供達の姿を見詰めながらひめは思ったのだった。

『どんな世界でも、人は、逞しく生き、そして幸せを掴むことができるんだと改めて教わりました。そして私達バディは、そんな人々を支えることが目的のロボットです。私達の存在が人々の幸福に繋がることを、私達は切に願い、行動します。

浅葱あさぎ様。凍土に閉じ込められ、ただいつか朽ちていくのを待つだけだった私に、私達に、再びお役に立てる機会を与えてくださったことを深く感謝します。

私達はその御恩に報いる為にも、これからも自らを役立てていく所存です』



この後、さらに三百年の年月を経て、折守おりかみ市住人達は自らの手で地上へと到達し、マイナス百六十度のそこにドーム状の人工環境を作り上げ、生活を始めることとなった。

しかもそれにより、災禍に見舞われた惑星御津志筑みつしづきをモニターしていた他の惑星に発見され、支援の手が差し伸べられることになったのである。

惑星御津志筑みつしづきへと降り立った<使者>達と折守おりかみ市の住人達との会談の場にも、ひめが御津志筑みつしづき側の代表の一人として立ち会うことになった。

こうして、折守おりかみ市の人々は、自らの生き方を守りつつ、これから後も恒常的にその世界を維持し続けていく機会を得たのだった。

そしてそれを誰よりも喜んだのは、ひめだったのだという。







「こうして、こおりのほしのねむりひめは、みんなと一緒にずっとずっと幸せに暮らしましたとさ。

めでたし、めでたし」

「ねえ、おばあちゃん。ねむりひめはバディなんでしょ? 人間よりずっとずっと長生きなんだよね? 今も生きてるの?」

「ああ、もちろん。今でもちゃ~んと、みんなのために働いてくれてるよ。だから私達も、彼女に恥ずかしくないように一生懸命、働かなきゃね」

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