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傍にいます

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バディは、人間の為に存在するロボットである。

だから、『この過酷な世界から人間を救おう』と考えるのも当然の思考だった。実際に、それが可能だと判断すれば実行に移していただろう。

しかし、少なくとも現時点ではその考えを行動に移せるだけの前提条件が彼女には見付けられなかった。だから彼女は、いわば<待機状態>のままで行動に移せる機会を窺っているとも言えるだろう。

彼女はあくまで<人間の為に存在するロボット>なのだから。

決して英雄になったりすることを望んでいるのではないのだから。

人間を救う為に人間を危険に曝すようなことは、彼女にはできないのだから。



そして同時に、彼女は知っている。<現状維持>だけでは、この世界はいつか必ず行き詰まるということを。こうしてただ毎日を淡々と送るだけでは、緩慢な死をただ先送りにしているだけにしか過ぎないことを。

いつかは必ず、この状況を大きく変えてしまう必要があるのだということを。

だがそれは<今>ではない。現状を大きく変えてしまえる素養がまだ育ってはいない。

今はいわば、<雌伏の時代とき>なのだろう。それと同時に、<きっかけ>は既に与えられている。

そのきっかけこそが、<ひめ>なのだ。

彼女がもたらした<小さな変化>が、やがてこの世界を大きく変えていくことになる。しかも幸いなことに、彼女がロボットであることが、百年後、二百年後、あるいはさらにその先で起こりえるであろう大きな変化まで見届け、支え、力になることも可能にするのだ。

だから彼女は待つ。幼い子供のように自分に甘えてくる浅葱あさぎに寄り添いながら、彼女の成長を、人生を、生き様を見届けながら。

まるで変化しているように見えない淡々とした毎日でも、<変化>は確実に起こっている。一日数センチずつとはいえ、砕氷さいひ達が掘り進む氷窟もまたその一つだった。

その僅かな変化が、いつか、浅葱あさぎがひめを掘り当てたように、次のきっかけとなるかもしれない。

いや、実際に、その<時>は確実に近付いてきている。

この折守おりかみ市の上には、惑星御津志筑みつしづきの人々が遺してきた遺物が今も眠っている。他ならぬひめもその一つだった。そしてそんなひめを上回る<きっかけ>が眠っていた。

残念ながら浅葱あさぎの代では決してそこまで至らないだろう。けれど彼女が淡々と掘り進めていることが次の世代へと引き継がれ、やがてそこへと到達するのだ。

『私はただ、その時まで人の傍にいます』

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