こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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世界の主役

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はっきり言って、ひめを作り上げた技術とでは数千年分の開きがあるので、それを理解しようとか解析しようとかいうのが無理な話である。その格差を埋める為の間の技術や理論がすっぱり抜け落ちているのだから。

時には途方もない<天才>が生まれて常軌を逸した閃きによって間を埋めてしまうようなことがあったりはするものの、僅か七万人しかいない折守おりかみ市にそういう天才が生まれるような確率は、それこそ天文学的な数字になるだろう。

もとより、今の折守おりかみ市に求められているのは<飛び抜けた天才>ではなく、実直で淡々と自らの仕事を確実にこなす実務能力なので、そもそもその手の天才は生まれ難いという背景もある。それが良い悪いではなく、一人の天才に振り回されてもそれを受け止められるだけの余裕がこの世界にはないのだ。そんなことをされては、それこそ<世界の破滅>に繋がる危険性さえある。

だから、折守おりかみ市の住人の能力が低いのではなくて、<求められる才能>そのものが違うのだ。

他人との共感性さえ捨て去って発想や閃きにステータスを全振りしたいわゆる<天才肌>の人間は、ここではむしろ危険な存在なのだから。

もし、ひめが<バディ>でなければ、それこそ人間だったりしたら、この世界に適応できなかったりしたら、場合によっては、この世界を崩壊させかねない存在だった可能性さえある。

ましてや、<熱血主人公>にありがちな、

『自分がこの世界を救わなくては!!』

という正義感に囚われて周囲を省みることもなく突っ走るようなタイプだった場合、それこそ<危険人物>として逮捕監禁する必要さえあったかもしれない。

だから、あくまで人間に従い、冷静に状況を解析して、そして最終的な判断は人間に委ねている<バディというロボット>だったからこそ、致命的な問題は生じなかったのである。

これまで多少の<活躍>はあったものの大きな波風が立たなかったのは、物語として見れば盛り上がりに欠けるものであったかもしれないが、この世界からすればそのようなことはあってもらってはそれこそ数日で『世界が終わる』レベルの話なので、『大きな事が起こらない。大きな事を起こさない』という点において、ひめは実に<活躍>してくれたのである。それこそが、今のこの世界には必要なことだったのだ。

『ただのんびりと穏やかに馴染んでくれること』

それが必要だったのだから。

『私はバディです。人間の為に存在します。私は<世界の主役>たりえません。私はどこまで行っても<人という主役>を支える為の脇役なのです』

そんなことを思いつつ、静かに寝息を立てる浅葱あさぎのあどけない寝顔を見詰めていたのだった。

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