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意思の疎通

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角泉かくせん釈侍しゃくじは、黙々と作業を行った。どちらも未熟故に決して目を見張るほどの成果はあげられなかったものの、彼女ら自身、己が未熟であることを承知している為、不甲斐ない自分に悔しそうにはしつつも、それで自分を見失うような様子もなかった。

フードの奥からひめを真っ直ぐ見つめ、角泉かくせんが言う。

「次はもっと上手くやる」

強い決意が込められた言葉だった。さらに、

「お前には勝てなくても私はやる」

とも。釈侍しゃくじも姉の言葉を受けて頷く。

それは、『バディであるお前には勝てる筈もないが、自分は立派な砕氷さいひになってみせる』という意味だった。言葉は足りないが、それでもひめにはちゃんと伝わった。

『ロボットである私に、身体能力的な意味では勝てなくても、ちゃんと自分にできることをやってみせると考えているんですね』



こうして、三組の、<砕氷さいひを目指す少年少女達>のそれぞれの実地研修初日は終わった。

「どうだった? あいつらは」

家に帰り、自分の食事の用意をしながら浅葱あさぎが問い掛けてくる。

「皆さん素晴らしい方々です。自分の意志と目標を持ってしっかりと地に足を着けて砕氷さいひを目指してます」

ひめのその言葉に、浅葱あさぎは小さく頷いた。いつもと変わらない仏頂面にも見えるその顔が僅かに緩んでいることを、ひめは見逃さなかった。

浅葱あさぎ様も、自分の後輩達の立派な姿に満足してるようですね。その上で、みなさんが評価されたのが嬉しいんですね』

その通りだった。浅葱あさぎは、砕氷さいひを目指す子供達をひめが褒めてくれたのが嬉しかったのだ。

他の世界の人間達には伝わらないかもしれなくても、ひめにはしっかりと伝わっていた。

だから、夕食を終え、片付けを終え、風呂を終えた後に、パッと見には分かりにくくても上機嫌で甘えてくる浅葱あさぎを抱いて、ひめはベッドに横になった。

浅葱あさぎの髪をそっと撫でると、ますます顔をすり寄せてくる。

ここはとても厳しい世界ではあるが、こうやって甘える時にはしっかりと甘えさせてくれる社会でもある。特に乳幼児の頃には、泣いている状態で放っておかれることはまずない。外で大声で泣いたりするのは危険だからだ。泣かなくても意思の疎通が図れることを、それこそ赤ん坊の頃から徹底的に伝えてくれる。

この世界の人間達が口数少なくいられるのは、相手がきちんと自分の話を聞いて理解しようとしてくれるのが分かるからだ。必要以上に言葉を連ねなくても済むからである。

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