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凍った土と凍土

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九縁くぶちも幼い頃から砕氷さいひに憧れて、兄の始閣しかくと共に<砕氷さいひごっこ>をして遊んだ口である。だから凍った土を<びしゃん>で砕くのには慣れていた。慣れているつもりだった。なのに、今、こうして<びしゃん>を打ち付けている<凍土>は、彼女がこれまで触ってきた<凍った土>とはまるで別のものだった。どちらも<凍った土>という意味では同じだが、その性質はまったく違っていた。それはもはや完全に<岩>だった。

ただの<凍った土>なら、<びしゃん>でなくても砕くことはできる。しかし、ほぼ岩と変わらない高度や強度をもつこの地の永久凍土を砕くには、そもそもが石を加工する為の工具として生み出された<びしゃん>でなければ砕くことは容易ではないのである。

砕氷さいひを目指す子供達は、大抵、この洗礼を受ける。始閣しかくも当然、初めての時には戸惑った。その時の自分と同じ経験を妹もしたことに、始閣しかくの目が僅かに微笑むように細められていた。

馬鹿にしているのではない。自分がかつてそうだったことをくすぐったく思い出していたのだ。

その後、九縁くぶちの作業はまったく進まなかった。僅か数ミリ、凍土を削っただけに過ぎない。それが悔しくて九縁くぶちはフードの下で唇を噛みしめていた。

とは言え、多少は経験もしてきている兄の始閣しかくも、九縁くぶちとそう変わらない結果に終わったが。そのコツをつかむには、まだまだ経験が少なすぎた。

「俺達は未熟だ。今日はそれを確かめに来たんだ」

一通り作業を終えてから、始閣しかくが悔しそうにうなだれる九縁くぶちに言った。厳しいように見えて、実は気遣いが込められた言葉だった。

それでも九縁くぶちは顔を上げることができなかった。

そんな彼女にひめがを掛ける。

九縁くぶちさん。砕氷さいひが求めるものは<下>ではなく<上>にあるものです。下ばかり見ていては掴めないものでもあります」

それはかつて、重蔵じゅうぞう浅葱あさぎに送った言葉でもある。それがひめの口からも出たのだ。

それほどまでに、砕氷さいひという仕事を端的に表している言葉だった。

地峡を覆いつくしただけでなく地下まで蝕むように迫りくる氷から逃れるように下へ下へと生活圏を求めたかつての人類の痕跡は、すべて折守おりかみ市の<上>にあるのだから。

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