こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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これからも

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自分に甘えようとする浅葱あさぎを受け入れつつひめは砕氷さいひとしての仕事もこなしていた。<居住スペース>の調査については渋詞しぶしらに任せ、自らは新しい氷窟を掘る。

残念ながら<居住スペース>を見付けた時の、氷窟の壁を叩いて地中を伝わる僅かな振動によって構造を把握するという方法では、有力な情報は得られなかった。それは、彼女の解析が可能な範囲内には同じような空洞は存在しないという意味でもある。

だから今後は、他の砕氷さいひと同じくその先に遺跡があると信じて地道に掘り続けるしかなかった。

しかし、ひめは、機械の体を持ち、疲れることがなく、苦痛も感じないロボットなので、無為にも思える単調な作業の繰り返しはむしろ得意とするところだった。産業機械が不平不満を漏らすこともなく延々と同じ作業を繰り返すことができるのを思い浮かべれば理解しやすいかもしれない。どれほど人間のように振る舞うことができても彼女はれっきとしたロボットなのだ。

そして、人間に仕え、奉仕し、役に立つことこそが彼女にとっての<喜び>だった。

『人の中には、私達ロボットの献身を<隷従>と捉え、奴隷解放よろしく解消することを望んでる人もいるらしいですけど、私達ロボットはそれを苦痛になんて感じていません。私達ロボットに心はないんです。人と対等になることも望んでません。

人の道具であるロボットにとっての喜びと、人の思う喜びとは違うんです。

浅葱あさぎ様。あなたはちゃんと私を<道具>として使ってくれますか? <母親の代わりという道具>としてでも構いません。私を道具として使いこなしてください』

自分に寄り添って、胸に顔をうずめるようにして眠る、あどけない子供の顔をした浅葱あさぎに、ひめは、言葉には出さずにそう問い掛けた。もちろん答えが返ってくるのを期待してたわけじゃないけれど。

『この世界の人達は、不器用で、でも生真面目で、ひたむきで、真っ直ぐに自身の生に向き合っています。私はそれをとても好ましいと感じます。

私のかつてのオーナーは<友達>のようにフランクに振る舞うことを私に望まれました。だけど浅葱あさぎ様達は節度を持って、ある程度の距離を置くことが一番安心できるんですね。そしてそれは、ロボットである私にとっても、ある意味では好ましい対応だと思います。

浅葱あさぎ様。私は浅葱あさぎ様に見付けていただいて<幸せ>です。心を持たないのに幸せを感じるというのは矛盾しているかもしれませんが、確かに幸せなんです。

これからもよろしくお願いします』

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