こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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全容

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渋詞しぶし達の作業の様子を、ひめは黙って見ていた。彼らの仕事ぶりを学ぶ為である。

『すごいですね…』

純粋にそう感心した。砕氷さいひとはまた違うものの淡々と手際よく作業をこなすことをすごいと思った。まさに<プロフェッショナル>だったと言えるだろう。

「……」

そんなひめが見守る中、新万しんばんが音によってドアの内部の様子を探る。しかし、彼は黙って首を横に振った。内部は完全に埋まっているという合図だった。そこに五つのドアがあったものの、結局どれも埋まってしまっているか潰されていると思われた。

となると、通路をさらに進んだ先に何があるのかということになるだろうか。埋まってしまっていてもその中には何らかの遺物がある可能性は十分にあるので、それは後程調べることになる。とにかく今は、この全容を探るのだ。

先にも述べたが、このスペースが築かれた頃にはほぼ社会は崩壊し、個々人がそれぞれ勝手に生存可能な空間を作っている状態だったが、こうやって通路が作られて他の空間と繋げられている場合もあった。ただそれは、助け合う為というよりは単純に同種の生物に出会い、子孫を残す為というニュアンスのものだったようである。既に発見された同様の空間から発見された<日記>から推測された状況だ。

社会性を失い助け合うことをしなくなっても動物としての本能は残っていたということだろうか。

氷の圧力に負けて大きく歪んだ通路を、渋詞しぶし研果けんか及び新万しんばんが進んだ。もちろん危険は想定されるから慎重に進むものの、命を落とす危険性については彼らは既に覚悟を完了している。無駄死にする訳にはいかないから慎重になるだけだ。

しかし、通路は、変形して見通しが悪くなっていた部分から少し行ったところで途絶えていた。氷によって押しつぶされたというよりは、そもそも作られていないという感じだった。

なのでそこから先については調査は見送られることになるだろう。基本的にはドアの向こうにあるであろう、氷に埋め尽くされたか押し潰されたと思われる部屋を発掘することになる。これについてはあくまで発掘された遺跡の調査なので、砕氷さいひではなく彼ら調査チームの仕事になる。

あまり期待はできないものの、蒸気配管に使えそうなパイプでも見つけられれば上等だ。

今後の大まかな手順を検討し、さらに詳細に決める為に、今日のところはこれで作業を終了することになったのだった。

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