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残土

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ひめが掘り当てた居住スペースの中で発見されたタブレットAIのニュートも、大変な恩恵をこの世界にもたらすと思われた。なにしろ、技術的なことについて、ひめほどではないにしても豊富な情報を持ち、アドバイスができるからだ。これで、ひめが氷窟を掘っている間も、人間達の相談にある程度は乗ることができる。ニュートでは対応できないような内容は改めてひめに問えばいい。

かつ浅葱あさぎがひめと共に見付けたメディア、<メモリーカード>が使えるというのもある。

メモリーカードの内容そのものは厳重に管理されるものの、メモリーカードの容量の空いたところにデータを保存できるので、それだけでも、この世界で使われているすべてのコンピューターの記憶容量を合わせた以上のデータが保存できるのだから。



ニュートを発見し、舞華まいか達に預けてきた翌日、ひめは、自分が掘り当てた居住スペースへと繋がる氷窟に放置してきた残土を、ありったけの残土袋を持ち込んでそれに詰めて搬出した。砕氷さいひ達が何年もかけて掘り出す量を僅か一日で掘り出した為にそれは大変な状態になっていたが、ひめにとってはそれほどのことではなかった。

「ひめ…、私も手伝う……」

自身が掘りだした訳でもない残土の運び出しなど人間が喜んですることはあまりないということを知っているひめは人間達にその作業を委託する気はなかったのだが、浅葱あさぎが自ら申し出たそれについては、

「ありがとうございます」

と頭を下げて素直に受け入れた。するといつの間にか、圭児けいじ遥座ようざ開螺あくらの三人も作業に加わっていた。

「手分けした方が早いだろう?」

自然にリーダー役に収まっていた最年長の開螺あくらがそう言った。無論それに対してもひめは「ありがとうございます」と頭を下げた。

しかし、ひめを手伝うのはこの四人だけとなった。決して広いとは言い難い、しかも傾斜が急なところも多い氷窟を多くの人間が同時に行き交うのは、予期しない事故、しかも何人もが巻き込まれる多重事故になる危険性もあるので、この辺りが限度であっただろう。

正直なところ、人間の倍以上のパワーを持つひめに比べて生身の人間は非常に効率が悪く必ずしも劇的に作業時間を短縮することにはならなかったが、それでもひめだけで作業するよりも早く残土は綺麗に撤去されていった。

そしてそれは同時に、資源を得る為の土砂が大量に確保されたということでもある。

「こんなに…?」

やぐらの下に設けられた残土置き場は、つい数日前に回収業者が搬出したところだったが、改めて回収しに来てもらったところ、担当者が驚きのあまりそう声を漏らしたのだった。

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