こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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集まり

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その日、重蔵じゅうぞう開螺あくらが結婚したことを告げる為の集まりが、村の集会所によって行われていた。本当は重蔵の家で行う筈だったのが、思った以上に人が集まってしまったので集会所を使うことになったのである。そして、重蔵と開螺あくらが二人で結婚したことを皆に告げ、簡単な酒宴が始まった。

この日集まったのは三十名。これは、ただの結婚報告にしては異例なほどの集まりである。重蔵がいかに慕われ尊敬されているかということの表れだっただろう。参加しなかった者もあくまで仕事を優先しただけであった。

ここでは、仕事こそが何より優先される傾向もある。何しろ全員が手分けして己の役目を果たさないと維持できない世界なのだから。十三歳で成人とされるのも、それ以上、ただ守られる存在でいることが難しいからという面もある。守られる側から守る側へと早々に成長してもらわないと困るのだ。なのでニートなるものは存在しない。

それに、ここの社会は基本的に仕組みが単純である。おそらく、小学校を卒業する程度の知識があれば暮らしていく分にはそれほど困らない。なにしろ、ここで最も重要視されるのは、『死なないように気を付けろ』という、シンプル極まりないものだったからだ。

他人に恨まれれば生きる上で不利になる。だから恨まれるようなこともしない。セクハラもモラハラもパワハラもない。だから働きやすいというのもあるだろう。ただし、自らの仕事に対しては責任を持つ必要もあるが。

そういう訳で、結婚の報告の集まりを仕事を理由に断ったところで怒られもしないし不快にも思われない。なのに重蔵の為にたくさんの人間が集まった。あくまで自主的に。彼の人望はそれほどだということである。

「今日はありがとう。これからもよろしく頼む」

開螺あくらと共に深々と頭を下げた重蔵の挨拶を締めとして無事に結婚の報告は終わった。

「よかったですね。結婚式ってこんな感じでもいいんだって思いました」

通路を通って家に帰る途中、ひめがニコニコと笑顔でそう言う。

「ああ」

と、浅葱あさぎの返答はそっけないようにも見えるものだったが、内心は浅葱あさぎも感無量だった。

それでも、決して浮かれることなく自分の家に帰り、風呂に入り、明日に備えて寝た。師匠が結婚したからといってやるべきことは変わらない。明日もまた仕事だ。

そして翌日、当たり前のように氷窟を掘り進める浅葱浅葱あさぎの姿があった。その彼女が掘る氷窟から枝分かれした新たな氷窟を、ひめは掘り進めていた。例の<人工的な空間>まであと数メートル。

するとその時、「あ…!」と声を上げたひめが掘るペースを上げた。何かに気付いたようであった。

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