50 / 88
意外
しおりを挟む
『以前、私が機能していた時代だと、老化抑制技術の進歩により人の健康寿命が百二十歳を超えたことで、十三歳は<児童>という扱いだったな。だから結婚もできなかった。
でも、状況が大きく変わったことで社会も変わり、認識が変わり、常識が変わり、価値観が変わり、法律が変わったことで十三歳で成人として認められるようになったんだったら、私もそれに合わせてアップデートするしかない。私は人につき従うロボットなんだから』
ひめはそう考えていた。だから、
『浅葱様が重蔵様と結婚を考えてるんだったら、私はそれを応援したい』
とも考えた。しかし、
『でも、応援するって、どうすれば………?』
と戸惑ってもいた。
なにしろこの社会の場合、どうすれば応援することになるのかがまだデータ不足で判断が付かなかったからだ。そんなひめを脇に置いて、浅葱の方が先に動いた。
「ちょっと師匠のところに行ってくる…」
そう言って裏口から出て行った浅葱を、ひめはそっと尾行した。何かサポートできることがあればと思ったからだ。だが事態は思わぬ展開を見せた。
「師匠…、私……」
と声を掛けながら浅葱がドアを開けると、そこにはマスクをとった重蔵と女性とが口づけを交わしている光景があった。
「…あれ…?」
浅葱の口からそんな声が漏れる。呆気に取られていたのだろう。
「浅葱か、どうした?」
彼女に気付いて振り返った重蔵の前に立っていたのは、開螺であった。
「ああ、師匠、そうだったんだね」
目にした時には驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻した彼女が言った。
浅葱が察したとおりである。実は重蔵と開螺は最近、結婚を決めていたのだ。
開螺は現在二十六歳。彼女も結婚していたのだが夫を地熱発電所での工事中の事故で亡くし、子供もいなかったので、重蔵と結婚し子を生そうと考えたということだった。
もちろん浅葱も少し驚いたが、
『私よりは釣り合うか』
と、すぐに気持ちを切り替えることができた。
しかし、少し離れたところで音声を拾っていたひめにしてみれば、
『ええ~っ!?』
という感じで呆気に取られるほど、むしろ想定外の事態だった。
『そんな雰囲気、ぜんぜん感じ取れなかったのに…!』
重蔵とも開螺とも、これまで何度か顔を合わせていたものの、二人の表情や仕草や振る舞いからはそれを匂わせるものがまったくなかったのである。
だから、ひめは、自身の認識の根本部分の設定の変更を余儀なくされてしまった。彼女がかつて運用されていた世界とは根本的に価値観が異なるのだと。
『ここでは、都合さえ合ったら、互いの利害さえ合致したら、恋愛感情なんかなくても結婚しちゃうんだね』
ということを基本にしなければいけないのだと思わされたのだった。
でも、状況が大きく変わったことで社会も変わり、認識が変わり、常識が変わり、価値観が変わり、法律が変わったことで十三歳で成人として認められるようになったんだったら、私もそれに合わせてアップデートするしかない。私は人につき従うロボットなんだから』
ひめはそう考えていた。だから、
『浅葱様が重蔵様と結婚を考えてるんだったら、私はそれを応援したい』
とも考えた。しかし、
『でも、応援するって、どうすれば………?』
と戸惑ってもいた。
なにしろこの社会の場合、どうすれば応援することになるのかがまだデータ不足で判断が付かなかったからだ。そんなひめを脇に置いて、浅葱の方が先に動いた。
「ちょっと師匠のところに行ってくる…」
そう言って裏口から出て行った浅葱を、ひめはそっと尾行した。何かサポートできることがあればと思ったからだ。だが事態は思わぬ展開を見せた。
「師匠…、私……」
と声を掛けながら浅葱がドアを開けると、そこにはマスクをとった重蔵と女性とが口づけを交わしている光景があった。
「…あれ…?」
浅葱の口からそんな声が漏れる。呆気に取られていたのだろう。
「浅葱か、どうした?」
彼女に気付いて振り返った重蔵の前に立っていたのは、開螺であった。
「ああ、師匠、そうだったんだね」
目にした時には驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻した彼女が言った。
浅葱が察したとおりである。実は重蔵と開螺は最近、結婚を決めていたのだ。
開螺は現在二十六歳。彼女も結婚していたのだが夫を地熱発電所での工事中の事故で亡くし、子供もいなかったので、重蔵と結婚し子を生そうと考えたということだった。
もちろん浅葱も少し驚いたが、
『私よりは釣り合うか』
と、すぐに気持ちを切り替えることができた。
しかし、少し離れたところで音声を拾っていたひめにしてみれば、
『ええ~っ!?』
という感じで呆気に取られるほど、むしろ想定外の事態だった。
『そんな雰囲気、ぜんぜん感じ取れなかったのに…!』
重蔵とも開螺とも、これまで何度か顔を合わせていたものの、二人の表情や仕草や振る舞いからはそれを匂わせるものがまったくなかったのである。
だから、ひめは、自身の認識の根本部分の設定の変更を余儀なくされてしまった。彼女がかつて運用されていた世界とは根本的に価値観が異なるのだと。
『ここでは、都合さえ合ったら、互いの利害さえ合致したら、恋愛感情なんかなくても結婚しちゃうんだね』
ということを基本にしなければいけないのだと思わされたのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

最弱能力「毒無効」実は最強だった!
斑目 ごたく
ファンタジー
「毒無効」と聞いて、強い能力を思い浮かべる人はまずいないだろう。
それどころか、そんな能力は必要のないと考え、たとえ存在しても顧みられないような、そんな最弱能力と認識されているのではないか。
そんな能力を神から授けられてしまったアラン・ブレイクはその栄光の人生が一転、挫折へと転がり落ちてしまう。
ここは「ギフト」と呼ばれる特別な能力が、誰にでも授けられる世界。
そんな世界で衆目の下、そのような最弱能力を授けられてしまったアランは、周りから一気に手の平を返され、貴族としての存在すらも抹消されてしまう。
そんな絶望に耐えきれなくなった彼は姿を消し、人里離れた奥地で一人引きこもっていた。
そして彼は自分の殻に閉じこもり、自堕落な生活を送る。
そんな彼に、外の世界の情報など入ってくる訳もない。
だから、知らなかったのだ。
世界がある日を境に変わってしまったことを。
これは変わってしまった世界で最強の能力となった「毒無効」を武器に、かつて自分を見限り捨て去った者達へと復讐するアラン・ブレイクの物語。
この作品は「小説家になろう」様にも投降されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる