こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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意外

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『以前、私が機能していた時代だと、老化抑制技術の進歩により人の健康寿命が百二十歳を超えたことで、十三歳は<児童>という扱いだったな。だから結婚もできなかった。

でも、状況が大きく変わったことで社会も変わり、認識が変わり、常識が変わり、価値観が変わり、法律が変わったことで十三歳で成人として認められるようになったんだったら、私もそれに合わせてアップデートするしかない。私は人につき従うロボットなんだから』

ひめはそう考えていた。だから、

浅葱あさぎ様が重蔵じゅうぞう様と結婚を考えてるんだったら、私はそれを応援したい』

とも考えた。しかし、

『でも、応援するって、どうすれば………?』

と戸惑ってもいた。

なにしろこの社会の場合、どうすれば応援することになるのかがまだデータ不足で判断が付かなかったからだ。そんなひめを脇に置いて、浅葱あさぎの方が先に動いた。

「ちょっと師匠のところに行ってくる…」

そう言って裏口から出て行った浅葱あさぎを、ひめはそっと尾行した。何かサポートできることがあればと思ったからだ。だが事態は思わぬ展開を見せた。

「師匠…、私……」

と声を掛けながら浅葱あさぎがドアを開けると、そこにはマスクをとった重蔵と女性とが口づけを交わしている光景があった。

「…あれ…?」

浅葱あさぎの口からそんな声が漏れる。呆気に取られていたのだろう。

浅葱あさぎか、どうした?」

彼女に気付いて振り返った重蔵の前に立っていたのは、開螺あくらであった。

「ああ、師匠、そうだったんだね」

目にした時には驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻した彼女が言った。

浅葱あさぎが察したとおりである。実は重蔵と開螺あくらは最近、結婚を決めていたのだ。

開螺あくらは現在二十六歳。彼女も結婚していたのだが夫を地熱発電所での工事中の事故で亡くし、子供もいなかったので、重蔵と結婚し子を生そうと考えたということだった。

もちろん浅葱あさぎも少し驚いたが、

『私よりは釣り合うか』

と、すぐに気持ちを切り替えることができた。

しかし、少し離れたところで音声を拾っていたひめにしてみれば、

『ええ~っ!?』

という感じで呆気に取られるほど、むしろ想定外の事態だった。

『そんな雰囲気、ぜんぜん感じ取れなかったのに…!』

重蔵とも開螺あくらとも、これまで何度か顔を合わせていたものの、二人の表情や仕草や振る舞いからはそれを匂わせるものがまったくなかったのである。

だから、ひめは、自身の認識の根本部分の設定の変更を余儀なくされてしまった。彼女がかつて運用されていた世界とは根本的に価値観が異なるのだと。

『ここでは、都合さえ合ったら、互いの利害さえ合致したら、恋愛感情なんかなくても結婚しちゃうんだね』

ということを基本にしなければいけないのだと思わされたのだった。

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