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マッサージ

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「お疲れ様でした。浅葱あさぎ様。マッサージなどいかがでしょう?」

家に帰って風呂に入って食事を済ませ家の用事も終わらせて、いつものように黙ってテレビを見ている浅葱あさぎに、ひめはそう声を掛けた。

「あ…ああ、頼めるか?」

応えた浅葱あさぎの肩に触れ、やわやわと揉んでいく。決して強い力ではないのに、的確に凝っているところを揉みほぐしていく。

その心地好さにたまらず浅葱あさぎがウトウトし始めると、ひめは、

「ベッドに横になってください。全身マッサージします」

と彼女を促して、ベッドに俯せにさせた。

「ごめんなさい。上に乗ります」

と言いつつ、浅葱の体に馬乗りになる。ただし、体重は殆どかけない。人間のように<疲れる>ことがないので、軽く腰を浮かせた状態で膝関節を固定することができた。

やはり力はあまり入れずにやわやわと的確に凝ったところを揉みほぐす。ひめに備えられたセンサーが凝りを察知し、膨大なデータを持つAIが最適なマッサージの仕方を導き出しているのである。

すると五分と経たずに浅葱あさぎはすうすうと寝息を立て始めた。

「呼吸、脈拍、血流、全て異常なし。あとは疲労さえ回復すれば健康です」

囁くようにそう言ったひめの声は、既に浅葱あさぎの耳には届いていなかった。

「こうして見るとまだまだ子供ですね~」

安心しきったあどけない寝顔は、確かに子供のそれだった。

そっと布団を掛け、立ち上がる。

「さて、と」

と部屋を見回すものの、必要な家事は浅葱あさぎと手分けして既に終わらせているので、することは基本的にもうない。

なのでひめも、部屋の明かりを消し、電源ケーブルを伸ばしてプラグをさし、充電を始める。

椅子に座り、目を閉じ、眠るわけではないのだが、機能をセーブし、いわばスリープモードのような状態となったのだった。



翌朝、浅葱あさぎが起きる時間に合わせてひめも起動する。

『朝食の用意くらいさせてほしいんだけどな』

と彼女が思うとおり、浅葱あさぎは自分のことは自分でするので、本当にひめのすることは限られていた。かつての環境ならまず考えられないことだった。

家のことなどをしてもらう為にロボットを買うのだから。

『でも、これがここの人達の当たり前なんだもんね』

ひめはそう考えて、敢えて言われたこと以外はやらないようにした。しつこく『やらせてほしい』と、でしゃばることはなかったのである。
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