こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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明るい未来

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浅葱あさぎと共に暮らすことにより、ひめはさらにこの世界の日常を学び取っていた。

まずこの世界には<冷蔵庫>がない。蒸気配管による床暖房がない部屋などは室温が氷点下まで下がるので、必要がないのだ。そして冷蔵庫の代わりに<保温庫>がある。これは、温めるというよりは『凍らせないようする為』のものだった。だから庫内温度は冷蔵庫と同じくらいである。

また、食事は体を温める為にきちんと加熱されたものが殆どである。生で食べることはあまりない。そもそも保管している時点で凍ってしまうので、<生で食う>ことができない。肉も魚も、石のように固く凍ってしまう。

調理器具は電気で加熱するものが主流だ。と言うより、閉ざされた地下空間なので、<火>が殆ど使えないのだ。下手に火を使うとそれこそ一酸化炭素中毒で全滅しかねない。同じ理由で火事を出すことも固く禁じられている。

幸い、その点については木材などの建築資材のみならず内装品及び衣料品に至るまでを難燃加工する、もしくはそもそも難燃素材を利用するという技術が残っていた為、意図的に燃料でもぶちまけて火を点けない限り大きな燃焼は起きないようになっていた。

「肉や魚はどうやって確保してるんですか?」

ひめが問い掛けると、浅葱あさぎは、

「養殖ってのをしてるとは聞いた」

と答えた。

まさにその通りで、ブロイラーを祖先とする寒さに強い品種として改良されたニワトリ=<雪鶏>を工場のような施設で、魚は水族館のような大型の水槽で完全管理して養殖していた。なので、普段食べられる肉は殆どが鶏肉である。魚も、イワシ、アジ、サバを基に改良された数種だけしか普段は食べられない。

防寒着を作る為に懐炉鹿かいろじか土竜海豹もぐらあざらしが捕えられると骨まで残さず利用され、その肉が売りに出されたりもするのだが、さすがに超高級品扱いになり、英雄である砕氷さいひでさえおいそれと口にはできなかった。祝い事とかの特別な時に奮発するくらいだろう。一般人などはそれこそ病気の時などに精をつけてくれと差し入れられるのを見るくらいか。ちなみに市長の舞香まいかですらそれらを普段から口にすることはない。

同じようにして、<海>で採れる魚も、地熱発電所の件でひめが褒賞としてもらった<天然ものの魚>は数が少ないことからこれまた超高級品扱いである。なにしろ、下手に漁などしようと海に出て事故にでもなればほぼ間違いなく命を落とす。あくまで陸から釣竿で届く範囲での釣りで得られるもののみなのだ。

野菜の類もすべてが工場での生産となる。露地ものの野菜は存在しない。まともに生育しないから当然かもしれないが。

このように厳しい環境であっても、人間達は生きていた。<明るい未来>などなくても、人間は生きられるということなのだろう。

<今>を精一杯生きるだけでもよいのだから。

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