35 / 88
救護
しおりを挟む
この世界の状況と在り様を理解し、ひめは改めて、
『皆さんのために頑張らなくちゃ』
と、人間達の為に自らを役立てることを決意した。
次の日からもさっそく、浅葱から借り受けたバールで氷窟を掘り進め、ひめはまず目先の役目をこなすことに専念する。だが、その時、彼女の表情がハッとなった。
「浅葱様!、遥座様の身に何かあったみたいです! 救護に行っていいですか!」
自身の氷窟の掘削に集中していた浅葱にそう声を掛けたひめは、戸惑いながらも「あ、ああ。頼む」という返答をしてくれたことを確認し、まるでネズミのように氷窟を駆け抜けた。そして遥座の担当する氷窟に入り駆けつけると、そこには顔を押さえて倒れ伏した彼の姿があった。
「遥座様、失礼します」
と断りを入れて彼を助け起こした彼女の目に、割れたガラスのようになった氷の破片が刺さった様子が見えた。
あまりの寒さで血は流れ出た途端に凍りつき、そのおかげで出血はそれほどではなかったが瞼に刺さった氷の破片が眼球を傷付けている可能性があった。慎重にそれを取り除き、自らのポケットからガーゼと絆創膏を取り出して傷口に当てる。
こういう事故は決して珍しくない。それによって命を失う者もいるし、命は助かっても砕氷としての生命線は経たれ引退する者もいる。目をやられたとなれば仕事を続けられなくなる可能性も高い。
「遥座様、しばらく辛抱してくださいね」
ひめは彼を背負って体にハーネスを掛け、固定する。そして氷窟を慌てずしかし迅速に移動して櫓まで戻った。そこで非常事態を告げる鐘を二回鳴らす。それは怪我人が出たことを知らせる合図だった。浅葱から聞いていたことを実行したのである。
その鐘の音を聞きつけた者が病院に連絡を入れ、六輪トラックを改造した救急車が櫓の下に駆けつける。そこにちょうど遥座を背負ったひめが下りてきて、救急隊員に彼を引き渡したのだった。
「すまん。お前のおかげで助かった」
その日の夜には退院して浅葱の家に立ち寄った遥座がひめに向かってそう言った。
「怪我の具合はどうですか?」
問い掛けるひめに彼は僅かに笑みを浮かべて言う。
「目は大丈夫だった。傷跡は残るが治ればまた仕事もできる。お前がすぐに対処してくれたからだ。感謝する」
彼には妻と幼い二人の子供がおり、まだまだしっかりと働かなければいけない時だっただけに大事に至らずに済んで誰もが胸を撫で下ろした。
遥座が立ち去ってから、浅葱はひめに言った。
「遥座を助けてくれてありがとう。私からも礼を言う」
そんな浅葱に、ひめは、
「いえ、これが私の役目ですから」
と、にっこり笑ったのだった。
『皆さんのために頑張らなくちゃ』
と、人間達の為に自らを役立てることを決意した。
次の日からもさっそく、浅葱から借り受けたバールで氷窟を掘り進め、ひめはまず目先の役目をこなすことに専念する。だが、その時、彼女の表情がハッとなった。
「浅葱様!、遥座様の身に何かあったみたいです! 救護に行っていいですか!」
自身の氷窟の掘削に集中していた浅葱にそう声を掛けたひめは、戸惑いながらも「あ、ああ。頼む」という返答をしてくれたことを確認し、まるでネズミのように氷窟を駆け抜けた。そして遥座の担当する氷窟に入り駆けつけると、そこには顔を押さえて倒れ伏した彼の姿があった。
「遥座様、失礼します」
と断りを入れて彼を助け起こした彼女の目に、割れたガラスのようになった氷の破片が刺さった様子が見えた。
あまりの寒さで血は流れ出た途端に凍りつき、そのおかげで出血はそれほどではなかったが瞼に刺さった氷の破片が眼球を傷付けている可能性があった。慎重にそれを取り除き、自らのポケットからガーゼと絆創膏を取り出して傷口に当てる。
こういう事故は決して珍しくない。それによって命を失う者もいるし、命は助かっても砕氷としての生命線は経たれ引退する者もいる。目をやられたとなれば仕事を続けられなくなる可能性も高い。
「遥座様、しばらく辛抱してくださいね」
ひめは彼を背負って体にハーネスを掛け、固定する。そして氷窟を慌てずしかし迅速に移動して櫓まで戻った。そこで非常事態を告げる鐘を二回鳴らす。それは怪我人が出たことを知らせる合図だった。浅葱から聞いていたことを実行したのである。
その鐘の音を聞きつけた者が病院に連絡を入れ、六輪トラックを改造した救急車が櫓の下に駆けつける。そこにちょうど遥座を背負ったひめが下りてきて、救急隊員に彼を引き渡したのだった。
「すまん。お前のおかげで助かった」
その日の夜には退院して浅葱の家に立ち寄った遥座がひめに向かってそう言った。
「怪我の具合はどうですか?」
問い掛けるひめに彼は僅かに笑みを浮かべて言う。
「目は大丈夫だった。傷跡は残るが治ればまた仕事もできる。お前がすぐに対処してくれたからだ。感謝する」
彼には妻と幼い二人の子供がおり、まだまだしっかりと働かなければいけない時だっただけに大事に至らずに済んで誰もが胸を撫で下ろした。
遥座が立ち去ってから、浅葱はひめに言った。
「遥座を助けてくれてありがとう。私からも礼を言う」
そんな浅葱に、ひめは、
「いえ、これが私の役目ですから」
と、にっこり笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
捨てられ第二王子は、神に愛される!
水魔沙希
ファンタジー
双子が疎ましく思われるシュテルツ王国で、双子の王子が生まれた。
案の定、双子の弟は『嘆きの塔』と呼ばれる城の離れに隔離されて、存在を隠されてしまった。
そんな未来を見た神様はその子に成り代わって、生きていく事にした。
これは、国に捨てられた王子が国に認められるまでの話。
全12話で完結します。
女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
バグゲームからの異世界召喚
ザマァズキ
ファンタジー
バグゲーといわれた1本のカートリッジ式ゲームソフト。
いわゆるレトロゲーム。
最期の1本を持ち主が手放そうとした時、
カートリッジが光だし、彼は異世界へと召喚された。
だが、召喚主には役に立たないと言われ送還されるが
失敗してしまう。
この世界に残ることを決めた彼は、冒険者を目指す。
ストーリー中の会話などで出て来た魔物の
情報を魔物図鑑という形で別途投稿しています。
聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜
みおな
ファンタジー
ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。
そして、王太子殿下の婚約者でもあった。
だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。
「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」
父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる