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人間の姿
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それらの地熱発電所の問題にある程度の道筋をつけるのにも一ヶ月を要したものの、自分達ではだましだまし使い続けるしかできなかったものを完璧に解決してみせたひめの存在に、仁左はもちろん、市長の舞香も興奮を抑え切れなかった。先の褒章を贈呈した際にも、
「お前はまさに我々の救世主だ。確かにお前は危機に瀕していたこの世界をひっくり返してみせた。私は人間の代表としてお前に心から感謝する!」
ひめの手をがっしりと握り締め、目を潤ませて舞華は何度も礼を言った。
一方、そういうことがあったとは露知らず、浅葱の方はひめがいない間、重蔵の家に泊まり込んで一緒に暮らしていた。
重蔵は彼女の師であると同時に親代わりでもある。また、重蔵にとっても浅葱は娘のようなものでもあった。彼には、浅葱より僅かに年上となる娘がいたのだが、まだ幼い頃に母親とともに事故で亡くなっている。
だから重蔵と浅葱が一緒に暮らすのは自然な成り行きだったのだろう。とは言え、どちらも自分のことは自分で行うので、世話をするとかそういうのではないが。
そんな彼女の下に、一ヶ月ぶりにひめが帰ってきた。地熱発電所の高出力のプラグを使って満充電になって。
「これからもお手伝いすることにはなりそうですけど、しばらくは浅葱様と一緒にゆっくりできそうです」
にこやかにそう言われてもどういう顔をしていいのか分からなくて困りつつも、浅葱は「ああ…」とひめを出迎えた。
その日から改めてひめと二人の生活が始まり、二人で氷窟に入って凍土を掘る仕事を再開した。ひめは多めに残土袋を持って自らが掘り始めた氷窟に入り、一日一メートルのペースで掘り進める。そして帰りにはあの<物置>によってメディアを回収し千治に預けるという毎日を淡々と過ごした。
『私ももっと皆さんのお力にならなくっちゃ』
ひめは、そういうこの世界の住人達の力になりたいと考えた。ただただ己の役目を淡々とこなし、口数少なく、酒を飲んではしゃぐくらいで他にはこれといった娯楽もなく、己の命を全うしていく彼らこそ自身が支えるべきものだと思った。
自分の前を歩く浅葱の姿に、濃密な命の営みを見た。理屈ではない。『生きてるから生きる。それ以外は知らない』と、その背中が雄弁に語っていた。僅か十三歳の、ひめの認識ではまだ幼いと言っても差し支えない少女の背中がそう言っているのだ。
『これもまた、人間の姿なんですね……』
「お前はまさに我々の救世主だ。確かにお前は危機に瀕していたこの世界をひっくり返してみせた。私は人間の代表としてお前に心から感謝する!」
ひめの手をがっしりと握り締め、目を潤ませて舞華は何度も礼を言った。
一方、そういうことがあったとは露知らず、浅葱の方はひめがいない間、重蔵の家に泊まり込んで一緒に暮らしていた。
重蔵は彼女の師であると同時に親代わりでもある。また、重蔵にとっても浅葱は娘のようなものでもあった。彼には、浅葱より僅かに年上となる娘がいたのだが、まだ幼い頃に母親とともに事故で亡くなっている。
だから重蔵と浅葱が一緒に暮らすのは自然な成り行きだったのだろう。とは言え、どちらも自分のことは自分で行うので、世話をするとかそういうのではないが。
そんな彼女の下に、一ヶ月ぶりにひめが帰ってきた。地熱発電所の高出力のプラグを使って満充電になって。
「これからもお手伝いすることにはなりそうですけど、しばらくは浅葱様と一緒にゆっくりできそうです」
にこやかにそう言われてもどういう顔をしていいのか分からなくて困りつつも、浅葱は「ああ…」とひめを出迎えた。
その日から改めてひめと二人の生活が始まり、二人で氷窟に入って凍土を掘る仕事を再開した。ひめは多めに残土袋を持って自らが掘り始めた氷窟に入り、一日一メートルのペースで掘り進める。そして帰りにはあの<物置>によってメディアを回収し千治に預けるという毎日を淡々と過ごした。
『私ももっと皆さんのお力にならなくっちゃ』
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自分の前を歩く浅葱の姿に、濃密な命の営みを見た。理屈ではない。『生きてるから生きる。それ以外は知らない』と、その背中が雄弁に語っていた。僅か十三歳の、ひめの認識ではまだ幼いと言っても差し支えない少女の背中がそう言っているのだ。
『これもまた、人間の姿なんですね……』
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