こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
28 / 88

機能

しおりを挟む
『私も、お手伝いしていいかな?』

ひめのその申し出に戸惑いながらも、浅葱あさぎはそれを聞き入れた。

「じゃあ、この辺から十時の方向に向かって掘ってみてくれ」

方向を指示したのは、あまり適当に掘り進めると他の氷窟にぶつかったり氷窟の強度を下げてしまったりする危険性があるからである。大まかな氷窟の構造は頭に入っており、互いにそれを考慮しつつ掘り進んでいる。やたらとでたらめに掘っている訳ではないのだ。

「十時の方向ですね。分かりました。他の人が掘っている氷窟に影響を与えないように気を付ければいいんですね?」

そう確認するひめに、浅葱あさぎが「そうだ…」と頷く。

「分かりました。じゃあその前に改めて氷窟の構造を確認します。このハンマー使っていい?」

と言って彼女が手にしたのは、普段はあまり使うこともないただの金属製のハンマーだった。「ああ」と承諾をうけたことを確認し、ひめはそれを右手に持ち、左手と右耳を氷窟の壁に付け、ハンマーで壁を数回叩いた。そして別の壁を同じようにして叩く。それを何度か繰り返し、

「はい、分かりました」

と告げてハンマーを戻した。

「これで氷窟の構造がだいたい把握できました。あと、この位置から真っ直ぐ三十メートルのところに人工的な構造物による空間があります。私はそちらの方に向かって掘り進めばいいですか?」

と、浅葱あさぎが指示したところとは少しずれたところで指を差し、ひめは言った。

「あ、ああ、それでいい」

それからひめは浅葱あさぎからバールを借りてそこを掘り始めた。決して乱暴ではないが、しかし驚くほどの速さで掘り進めていく。しかも鼻歌交じりで。

呆気に取られた浅葱あさぎが見守る前で、すぐに体が隠れてしまうほどの穴を掘ってしまった。

だが、あまり一度に掘り進めると、出た土を運ぶのが大変になってしまう。だから浅葱あさぎは、

「今日はそのくらいにしておけ」

と、二メートルくらい掘り進めたひめに声を掛けた。

「あ、はい。分かりました」

浅葱あさぎに言われて彼女も素直に従い、掘り出した土を残土袋に詰め始める。普通なら残土袋が一つか二つで済むところが、持ってきた袋では足りず、明日また運び出すことになった。

「あまり一度に掘り進めると逆に大変ですね」

ひめもそれを理解したらしく反省していた。

そうして帰りにひめが発見された物置でメディアを回収。残土袋も背負って出口へと向かった。

やぐらまで戻ると、ダストシュートのようなものがあり、そこに残土袋から土を出して落した。その下は掘り出された土の集積所になっていて、それはまた別の専門の人間が回収し、そこから金属や鉱石を抽出して資源とするのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...