こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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「ひめ…、私はお前にしてもらいたいことがない。だからお前には私達の世界を理解してほしい」

浅葱あさぎは<ねむりひめ>に対し、そう告げた。

それに対し、『ひめ』と呼ばれた<ねむりひめ>は、屈託のない明るい笑顔を浮かべたままで、

「分かりました」

と答えた。その上で、

「この社会は、私が知ってるのとはかなり違いますね。詳しい状況を教えてください」

と問い掛ける。

そう訊かれて、浅葱あさぎは、自らが知る限りのことを説明した。

「ここは、永久凍土の天蓋に覆われた地下の空間なんだ。

そこに、七万人が暮らす<市>がある。人間はそこにしかいない。

昔はそうじゃなかったらしいが、私は詳しいことは知らない。お前が作られた頃の技術も知識も伝わってない。

私の仕事は砕氷さいひ。永久凍土を掘り進めかつての地下都市などに残された遺物を発掘するのが役目だ」

等々。

ひめは感心したように時折頷きながらそれに耳を傾け、ただ聞き入っている。その姿はまるで楽し気なお伽話を聞かされる幼い子供のようだった。

その一方、今では長々と話をするという習慣が失われてしまった為、浅葱あさぎは、

『こんなに一度に話をしたのは生れて初めてだ』

と感じていた。故に、話をするだけでも疲れてしまい、

「すまん…疲れた…」

と言ってベッドに横になってしまった。すると、ひめはベッドの脇に立ち、浅葱あさぎに笑顔のままで言った。

浅葱あさぎ様達はとっても大変な世界で生きてるんですね。分かりました。人間の相方バディとして役に立つのが私の役目です。何でも言ってください」

そんなひめを見上げながら、浅葱あさぎは何とも言えない表情をした。笑っているのか困っているのかよく分からない表情だった。

「今の浅葱あさぎ様の表情は、私の知らない表情でした。それはどういう感情なのか訊いてもいいですか?」

そんな風に問い掛けられても、浅葱あさぎ自身にも実はよく分からない。今、自分がどういう気持ちなのかが分からなかった。

だから正直に応えた。

「よく…分からない……お前のことがよく分からないのと同じ……」

最後の方は、消え入りそうな言葉だった。浅葱あさぎは眠りに落ちていってたのだ。目を瞑り、スー、スーと静かに寝息を立て始めた彼女の脇で、ひめはにこやかな表情のままで立っていた。

そして完全に浅葱あさぎが眠ってしまったのを確認すると、

「今日はもう無理っぽいですね」

と呟きながら、自身も椅子に戻り目を瞑ってしまったのだった。

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