こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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翌日、<ねむりひめ>については千治せんじ達に任せるということで、浅葱あさぎは再び単独で氷窟に入っていた。発掘品を回収する為だ。壁に設置された棚一杯のメディアらしきものを取り敢えず少しずつ回収し、収入とする。

千治は『バディで再生できれば金貨十枚になるかもしれない』と言ってはいたが、さすがに若い浅葱あさぎも冷静になって考えてみれば、

『たくさんあったら価値は下がるだろうな』

と、この数が一気に見付かれば値崩れを起こして安くなるのは察していた。だから銅貨三枚と計算して、一回につき十個ほど持ち帰ればいいかと考えていた。

発見者は彼女なので、権利は全て彼女にある。

ちなみに、それを横から掠め取ろうなどという不届き者はここにはいない。というのも、そうやって他人を蹴落としてでも『自分だけが』と考える人間は他人から疎まれて孤立し、どのような最期を迎えたかについては割愛するもののいずれにしても決して幸福とは言えない結末を迎えて淘汰されていくことになった。

他者と力を合わせなければ生きていけない世界がもたらした結果とも言えるだろう。

重蔵じゅうぞうが掘り当てた電気ヒーターを寄付し、窮状にあった者達を救うということも当たり前のように行われる世界だった。

それもまた、この世界の現実である。

浅葱あさぎは、<ねむりひめ>が見付かったことで、

『もっと助けになってくれれば』

と、口には出さなかったが思っていた。その為に役に立てばと。

<ねむりひめ>が発見された部屋と言うか物置と言うかに着き、棚を足場にして慎重に中へと降りる。メディアを持ち帰るのが一番の目的だが、今回はその前に確認したいこともあった。この部屋だか物置だかがさらにどこかに通じていないかということの確認だ。

棚に埋もれるような形だったが、扉らしきものはすぐに見付かった。しかし凍り付いていてそのままではびくともしなかった。そこで<びしゃん>で叩いて氷を砕き、そしてバールを隙間に差し込んで、慎重にこじ開けた。

その先は、真っ暗な空間だった。氷窟の本道の照明から電気を引っ張り、LEDの仮設照明で照らしてみた彼女の視線の先にあったのは、三メートルほど廊下のような空間が続いた後、唐突に岩のような氷に閉ざされた光景だった。

『駄目か…』

少し残念そうに小さく息をつく。さらに何か見付かればと思ったのだが、さすがにそう上手くはいかない。

廊下がねじくれたように変形していることから、氷の圧力に負けて圧し潰されたものだと分かったのだった。

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