こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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市長

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「なに! バディだと!?」

清見きよみ村の村長、美園みそのからの報告を受けた折守おりかみ市市長、舞華まいかは、そこまで言って言葉を失っていた。バディが発見されたとなればまさにこの世界がひっくり返るほどのことだ。扱いを誤ればパニックにもなりかねない。

なお、現在は、行政の重要な立場には殆ど女性が就いている。氷の檻に閉ざされたこの世界では外敵との戦乱などの心配がまるでなく、あくまで内部を穏やかに統率できればいいということで、女性の方が為政者に向いているという判断からそのようになっていた。

この惑星<御津志筑みつしづき>に起こったことを詳しく説明するのは極めて悲痛なものだと思われるので敢えて詳しくは触れない。ただ、大変な事故により御津志筑みつしづきは太陽の周りを回っていた公転軌道を外れて太陽を失い、厚さ数キロの氷と永久凍土に閉じ込められた<氷の惑星>と化してしまったことは、大きな悲劇と言えるだろう。

しかしこれは同時に、『人間同士で争っている場合ではない』という認識をもたらしたことも事実だった。そこに至るまでにどれだけの苦しみがあったのかを考えれば一概に『良かった』とは言えないものの、少なくとも今、折守市に残された人々が平穏に生きていくには役立っているのだと思われる。

ある意味では、現在の環境に適応できない者は淘汰されていったとも言えるかもしれない。

現在残されているのは、和を尊び互いに力を合わせてこの厳しい世界を生きていこうと考える者が殆どなのだ。

それでも、バディがもたらすかもしれない情報や技術は、危ういバランスで成り立っている今の社会を根本から覆す可能性さえ秘めている。その扱いには慎重を期さなければいけなかった。

さっそく、市長直轄の鑑定士兼技術者を派遣し、そのバディがどれだけのものなのかを見極めなければいけない。市長の舞華自身も己の目でそれを確認しなければと考え、コートを纏った。

「明日の公務はすべてキャンセルだ。この事態の対応に全力を傾ける!」

現在五十一歳。既に平均寿命を超えて、次の市長に責務を引き継ぎ静かに余生を送ろうと考えていたところに舞い込んだ一大事に、舞華は苦笑いしか浮かんでこなかった。

『やれやれ、まさか私の代でこんなことになるとは。平穏無事でいたかっただけなのにな』

それは、現市長の舞華に限った考えではなかっただろう。基本的にはそういう、穏やかな社会を望む者こそが長に選ばれる社会なのだ。

秘書三人を伴い、舞華は、装輪装甲車のような六輪車に乗り込み、美園達が乗ってきた履帯トラックの後をついて、千治せんじの家へと向かった。

その頃、浅葱あさぎ達は、重蔵じゅうぞうの家で、興奮を紛らわす為に酒を酌み交わし、殆ど全員が酔い潰れて寝ていたのだった。

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