こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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<バディと思しきもの>を千治せんじの家に運び込み、台の上に乗せ、千治、浅葱あさぎ重蔵じゅうぞう圭児けいじ遥座ようざ開螺あくら美園みその、そして美園の秘書である二人の若い女性が取り囲んでいた。

『世界をひっくり返すかもしれない程のものかもしれない』とは言え、まだそれが確定していない以上はあまり騒ぎを大きくしてはむしろ迷惑になるので、まずは<バディではない可能性>を潰していくことになった。

それには動かすことが一にも二にも重要だろう。<バディ>は人間の言葉を理解し、人間と同じように振る舞うのだと、発掘された文献にはあった。まあ文献と言っても実際には映像が記録されたメディアだが。

その映像の中で、バディは、人間と共に暮らし、人間以上の知識を持ち、人間以上の力を持ち、それでいて人間を支え守る存在であると言われていた。

この惑星がまだ太陽の周りを回り、燦々と日の光が降り注ぎ、空は青く、花が咲き乱れ、人々の顔には笑顔が溢れていた頃の話である。これは、一部の人間にしか開示されていない情報だった。この惑星ほしがかつて楽園のような世界であったことを知らされても、今はもうどうすることもできないからだ。自分達の世界がどれほど過酷で地獄のようであるかを改めて思い知らされたところで、ただ苦痛を与えるだけにしかならない。

ここにいる者の中でその映像を見たことがあるのは、鑑定士の千治を除けば重蔵と美園だけである。

重蔵は思う。

『昔はここも<太陽の光>が降り注いで、裸になって海で泳いだりもできたなんてのは、どんな悪い冗談かとも思ったもんだ』

しかも、そんな重蔵だけでなく、千治も美園も、その映像を見た後、数日間、悪夢にうなされる程にショックを受けた。楽園のような世界で幸せに暮らしているところから突然氷の地獄へと突き落とされる夢だ。

これは、重蔵らだけでなく他にもそういう事例が多いので、情報の公開には慎重にならざるを得ないという訳である。

もしこれが本当に<バディ>で、そして問題なく動くのなら、果たして何を語り、この世界の人間に何をもたらしてくれるのだろう。

正直、期待よりは不安の方が圧倒的に大きかった。自分達がどれほど救いのない世界に生きているのかを改めて思い知らされることになるのではないかと。だが、それでも知りたいという欲求もある。

「バッテリー残量が少ないというようなことを言ったんだな?」

千治が重蔵に尋ねる。

「ああ、そうだ。充電が必要とも言ってたな」

重蔵の答えに千治は「なるほど」と呟き、

「なら、まずは充電だな」

と、延長ケーブルを手に取って部屋のソケットに繋いだ。

「確かこの辺りに」

と言いながら<バディと思しきもの>の脇腹の辺りを探る。するとカチッという小さな音と共に蓋が開いた。そこから出てきたのは、有線で給電する為のプラグであった。

おもむろに千治が延長ケーブルのソケットにプラグを差し込んだ瞬間、バツン、と部屋が真っ暗になる。

「停電?」

実は停電が起こるのはそれほど珍しいことではないので慌てることなく浅葱あさぎがそう口にした。

「いや、ブレーカーが落ちただけだ」

千治が冷静にそう応える様子に、その場に居合わせた全員が苦笑いを浮かべていたのだった。

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