こおりのほしのねむりひめ(ほのぼのばーじょん)

京衛武百十

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鑑定結果

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「じゃあ、開けるぞ」

浅葱あさぎが持ち帰ったメディアを保管する為のケースと思しきものを受け取った千治せんじが、しばらく縦にしたり横にしたり裏返したりと慎重に確認していた。外側には縦一センチ横五センチほどの黒い縞模様のようなものが描かれているだけで、他には文字のようなものすらなかった。恐らくはこの縞模様が文字の代わりなのだろうと推測されているが、それが何を意味するのものなのかは、鑑定師である千治にも分からなかった。

既に三千年以上の昔、人間が、かつてのこの惑星上で繁栄を謳歌していた頃の文明も技術も、度重なる災害や地下への避難の間に失われ、今では言葉さえ満足に伝わっていない。だからこそ、それを取り戻すべく砕氷さいひ達は永久凍土を上へ上へと掘り進むのだ。

外側を確認し終えた千治が、ケースの横にある合わせ目らしい箇所の一部が出っ張った部分に指を掛けて、ゆっくりと力を加えていった。

パカ。という小さな音と共に、合わせ目が広がる。それを見詰めていた浅葱あさぎの胸も激しく鼓動を刻んでいた。

『う~…緊張する…』

その視線の先で開かれたケースの中には、いくつもの小さな四角い板状のものが整然と収められていた。縦三列、横六列、合計十八個の黒い小さな四角い板状のものを見た千治が、

「これは、<メモカ>というやつだな」

と呟いた。

「メモカ?」

重蔵が問い開ける。ベテラン砕氷さいひの彼ですら初めて見るものだった。

「おそらくメディアの一種だと推測されてるものだ。ただ現状ではこの中に記されたものは見られない。それを読み取る装置がないんだ」

残念そうに千治が応えると、重蔵が重ねて問い掛けた。

「と、いうことは?」

「残念だが、今のところ、あまり大きな価値はない。このケース一つで銅貨三枚といったところか…」

銅貨三枚となれば、一食分にも足りない程度だった。

「え~…?」

その結果に、浅葱あさぎがいかにも『がっかり』という声をもらす。

「せっかくの発見だが、古すぎるんだ。恐らくこれは、我々人間が地上で暮らしてた頃のものだ。だから本当はとんでもない価値を秘めてる可能性もある。しかしこの中に記された情報が読み取れない限りはやはり、な」

千治自身も苦笑いを浮かべながらそう言った。

とは言え、

「あ~あ、がっかり。壁いっぱいに同じようなのが棚に並べて置かれてた。数だけならかなり。当分の間、メシには困らないかな」

重蔵を見上げて、浅葱あさぎは精一杯の笑顔を作る。

だが、次に彼女が発した言葉に、千治が明らかに驚いた顔をしたのだった。

「あ、でも、そこには、人間の形をした何かも置かれてた。人形みたいな」

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