上 下
4 / 88

鑑定士

しおりを挟む
「これは、メディアか…?」

浅葱あさぎが持ち帰ったものを目にした重蔵じゅうぞうは、顔の殆どを覆う目と口だけが覗くマスクごしでも分かる驚きの表情をして呟いた。

「お前もこれで一人前だな」

改めて自分に細めた目を向ける師に、浅葱あさぎは頭を横に振った。

「ただのまぐれだよ」

見付けた時には思わず浮かれてしまったものの、実際には殆ど偶然のようなものだ。それを一人前と言われても、むしろ申し訳なさしかない。

「まぐれを呼び寄せるのも力だ。顔を上げろ。俺達が捜してるものは下にはない。上だ」

そう言いながら、自分達を押し潰そうとしているかのような圧迫感さえ覚える天蓋を見上げる重蔵につられるように浅葱あさぎも顔を上げた。

口数は少ないが、彼女にとって重蔵はこの世の誰よりも信頼できる偉大な師だった。その彼の言うことを蔑ろにするなんてことは浅葱あさぎにはできなかった。だから「はい…!」と素直に応えられた。

「とにかくこれは千治せんじに鑑定してもらおう。俺達はお前の見付けた遺物の回収の準備だ。忙しくなるぞ」

一旦、重蔵の家に戻って、土竜海豹もぐらあざらしの革でできた防寒具やバッグを部屋の定位置に戻し、彼女は重蔵と共に千治の家へと向かった。

千治せんじは、浅葱あさぎと重蔵が暮らす清見きよみ村で唯一の<鑑定士>であり、発掘品の価値を鑑定してくれると同時に、それがどういうものであるのかを調べる学者でもあった。今では使い方すら伝わっていない物品が多く、実は大変な価値を秘めながらも活かされることもなくそのままにされているものも多かったのだった。

気温マイナス十三度。今日は比較的暖かい。裏地がボア状になったジャージのような外着だけでも歩けばうっすらと汗をかく。分厚いブーツで凍った地面を踏みしめるとガリッガリッと硬いもので引っ掻くような音がする。舗装などしてもその上に凍った水分が降り積もり、やすりのような地面になるので柔らかい素材ではすぐに靴底が削れてしまう。だから靴底もおろし金のようなスパイクの付いた金属製だった。重さも片方だけで一キロ以上ある。

そして、十分ほどで千治の家へと着いた。

玄関先に吊り下げられた木槌を手に取り、柱をガンガンと叩く。電気はあるもののインターホンのような簡単な機械は、内部に入り込んだ水分が凍ったりしてすぐに壊れるので結局はこれが確実なのだ。

すると家の中からも、コンコンと音が響いてきた。『入ってこい』という合図だ。ドアを開けると、その中にまたドアがあった。外の冷気を部屋の中に入れないようにする為だ。

「よう」

内側のドアを開けると、白衣のようなコートのような白っぽい服を纏い、短髪で無精髭をたくわえた長身の中年男が二人を出迎えたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第四部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...