200万秒の救世主

京衛武百十

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これを最後に

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まるで絵に描いたような『五人の結束が強まる』という光景だったけれど、これも結局、危機的な状況を生き延びる為の本能的な反応なんだろうな。

となれば、厳しい状況に置かれれば助け合うことでしか生き延びる術を持たない、非力な<普通の人間>は、生きる為に互いを利用し合うという形を取ろうとするのが当然か。

もっともそれも、それなりに『この相手ならと思える』という前提があってのことだろうけどね。

元々、アリーネさんと吉佐倉よざくらさんの間では、多少の反発もありつつも、決して歩み寄りが不可能なほどの乖離じゃなかった。

ただ、人間というのは、『そうした方がいい』と分かっていてもその通りにできないことも多い生き物でもあるのも事実なのか。

その点でも、決定的に破綻した関係でなかったことは幸いだった。

もしそれが僕が二人の関係がどうしようもないものにならないように心を砕いてきたことの結果なら、それは嬉しいことだと言えるのかもしれない。残念ながら今の僕にはもう、それを嬉しいと感じるメンタリティは失われてしまったけど。そうなんだろうなと思える程度の知識が残っているだけで。

そんな彼女達の様子を、僕は、彼女達はからは決して見えない場所から、上空数千メートルから見守っていた。触角で探知できる情報を総合的に処理することで、ほとんど目で見るのと変わらない形で<見る>ことができるんだ。

『良かった…』

そう思いつつ、しかしあまり長く見ていることはしない。でないと、『彼女達を食いたい』という欲求が抑えきれなくなりそうだったから。

それと同時に僕の中に生じる<決心>。

どうやら彼女達が自分の力で生きていってくれそうだと確認できたことで、僕は最後の決心をすることができたんだ。

『いよいよだな……』

以前から考えていたことだった。だけど決心がつかず先延ばしにしてきただけだ。

その決心を胸に、僕は地上へ向かって走る。決心を実行に移す為に。

『おそらく、これで最後になる。

これを最後に、僕はもう、完全に怪物になるだろう……

神河内錬治としての記憶も、彼方へと押しやってしまうだろうな……

だから……』

地上へと降り立った僕の前に広がる光景。破壊され尽くした人間の世界と、腐敗して独特の臭いを放つ無数の遺体と、それにたかるハエなどの昆虫。

でも今の僕にはそれらすら不快なものじゃなかった。腐ってウジが湧き、人間にとっては吐き気さえもよおしそうな悪臭を放つ死肉でも関係ない。気持ち悪いなんて、欠片も思わない。

そこにあるのは、ただの<肉>。

僕はそれを、片っ端から貪る。

食っても食っても、腹は膨れない。食べなければ食べないでも我慢できるけど、いくら食べても満足もしなかった。食べた端からエネルギーに変換され、自分の体とは別の<どこか>に蓄積されていくのが分かる。だから僕達は、物理的には有り得ないように見える力を発揮することができるんだ。

<どこか>に蓄えられた無尽蔵のエネルギーを使うことができるから。

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