200万秒の救世主

京衛武百十

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衝動

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僕が吉佐倉よざくらさん達の下を離れた理由。

それは、自分の中に湧き上がった<衝動>だった。

彼女達が風呂に入ることを想像した瞬間、ぶわっと口の中に涎が湧きだしたんだ。

『美味そう……!』

確かに僕はそう思ってしまった。女性が風呂に入るのを想像して性的に興奮するんじゃなく、『美味そう』と。

まるで人間が、上等な肉や新鮮な魚の映像を見てそう思うかのように。

だから彼女達の姿が見えないようにその場を離れたんだ。

これまでは、彼女達を怯えさせないようにという配慮のつもりだった。なのに今回のは違っていた。自分を抑えるためだ。

そして改めて実感する。

『……もう時間がない……』

遠からず僕は、その欲求を抑え切れなくなる。彼女らの首筋に食らいついて息の根を止め、腹を食い破ってそこに頭を突っ込んであたたかく真っ赤に噴きだす血をすすりながら内臓をぐちゃぐちゃと貪りたいと思ってしまっている。そんな自分の姿が具体的に想像できる。そして味までも。

死体じゃなく、生きた人間のあたたかい血と肉。

『たまらない……!』

どうやら彼女達が生きられる設備を整える時間すらないようだ。

もっとも、今でも十分、<避難生活>としては快適だっただろうけどね。

僕がこれまで用意したもの。

発電機のガソリン、携行缶に入ったものが十個。たぶん一ヶ月は余裕でもちそうなほどのレトルト食品や缶詰。ミネラルウォーターのペットボトルは一トンを軽く超えている。それらを保管する為の小屋も新たに作った。

しかも食料は、周囲のスーパーやコンビニ跡を回ればレトルト食品や缶詰の類はまだまだ残っているだろう。

水も、ミネラルウォーターが大量に残されていた。

この辺りは、生き残った人間が少なかったことがむしろ幸いしているだろうな。何しろ、この公園の周囲、半径十キロ以内で現時点でも生存している人間の数は、彼女達を含めてもわずか数十人。確か数万人の人間が普通の暮らしをしていた街でこれだ。

つまり、数万人の人間が普通に生活を営めるだけの物資がここにはあったということ。その多くが衝撃波による大破壊の中で失われていたとしても、生鮮食品の類はダメになっていたとしても、僅か数十人の人間が当面の間を生き延びるには十分な物資が残されている筈なんだ。

この公園の周りには、徒歩十五分圏内でさえ、十数軒のコンビニがあり、三軒の中堅スーパーがあり、一軒の大型スーパーがあり、七軒のドラッグストアがあり、二軒のホームセンターがあった。そして、その徒歩十五分圏内には、彼女達以外の生存者は一人もいなかったのだった。

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