200万秒の救世主

対処

『どうすれば…』

どうすれば吉佐倉よざくらさんを励ますことができるかと、僕は思案した。

しかし、これという方法が思い付かないまま、風呂を沸かす時間がきてしまった。

『仕方ない。また後で考えるか』

そうして僕はやはり音速をはるかに超えた速度で空中を走り、吉佐倉さん達のところへと戻った。

地表に近付いた時には速度を落としたことで衝撃波は届かなかったものの、

ドーン

という音が大気を震わせた。それに、人間達がビクッとなって一斉に空を見上げるのが分かった。また何か起こるのかと身構えたんだ。

それは、吉佐倉さん達も同じだった。

「こわい…！　なんのおと？」

みほちゃんもさすがに怯えて吉佐倉さんに抱きつく。エレーンさんとシェリーちゃんは、そんな二人を守るかのように寄り添った。本当は怖かったけど、吉佐倉さんが無理をしていることは感じていたから、今度は自分達が彼女を守りたいと思ったらしい。

するとアリーネさんが自分のテントから出て身構えていた。その目は、以前ほどではなかったものの、強い意志の力が戻りつつあった。やはり僕が案じるまでもなく、彼女は自力で立ち直りつつあったんだ。

戦場で精神をやられ、そのまま立ち直ることなく命を落とした者や、耐え切れずに退官した者達を何人も見てきたことで、自分がそうなった時にどう対処すればいいのかというのを考えていたのを、僕は感じ取っていた。

彼女は今回のことを＜神の試練＞と捉え、それを延々と自らに言い聞かせてきてきた。納得できなくても『そういうものだ』と自分が思うまで、何度も何度も何度も何度も何度もひたすら言い聞かせていたのも、僕は知っている。

だからそれに集中する為に一人でいることを選んだ。吉佐倉さん達に構っている余裕がなかったから。

それが功を奏したんだろう。

でも、今回はもちろん特に何も起こらなかった。しばらくして何も起こらないことを理解した人間達は、ホッと胸を撫で下ろし、アリーネさんも警戒を解いた。

それを確かめてから、僕は彼女の前に現れる。

「……」

僕の姿が見えた瞬間、再びアリーネさんの体に緊張が奔るものの、特に何もする様子はなかった。

『今の自分ではこいつには勝てない。でも、今はこいつも敵対行動は見せてない。見せてないんだ』

そんな風に自分に言い聞かせてるのが分かる。

そして僕が＜浴室＞に入ってまた湯を沸かし始めるのを確かめて、彼女はテントへと戻った。

『風呂が沸いた』

お湯が沸くと僕はそう書かれたスケッチブックを、吉佐倉さん達がいた＜リビング＞の扉を少し開けて隙間から挿し込んで示した。

「お風呂が沸いたって……入る……？」

綾乃がそう尋ねると、みほちゃんとエレーンさんとシェリーちゃんは、

「うん…！」

と大きく頷く。

それを見届けて、僕は、彼女達からは自分の姿が見えないようにその場を離れたんだ。