200万秒の救世主

京衛武百十

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大人である僕が

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ミホちゃんに吉佐倉よざくらさんを呼んでもらって、僕は、四人に対して言わせてもらった。

「ごめんね……これまでみんなにはこういうことはさせたくなかったから留守番をお願いしてたけど、どうやらそういう訳にはいかなくなってきたみたいだ…」

神河内かみこうちさん…!」

僕が言おうとしてることを察して、吉佐倉さんが声を上げようとするのを、僕は力が入らなくて震える右手をようやく掲げて制しながら、続けた。

「吉佐倉さんの言いたいことも分かるよ……でももう、僕達が動き回るだけで大変なことになるのが分かった以上、もう全員が<加害者>にもなってしまってるんだと思う……だから僕達に残された手段は、いかに損害を小さくできるかっていうだけなんじゃないかな……なるべく早く…丁寧に終わらせるんだ……アリーネさんは軍人だから被害も損害も割り切って最も効率よく片付けようとすると思う……だから僕達は手分けして、残りの怪物達を、丁寧にそっと片付けることで少しでも被害を小さくしたい……

吉佐倉さん…力を貸してほしい……」

これまで僕が延々と考えてきたことをすべてひっくり返すことになるとしても、それはあくまで僕個人の拘りでしかなかった。もはやそれが通用しない状況になった今、自分自身の矜持すら捨てることになったとしてもかまわない。

「これは…大人である僕が唆したことだ……責任は全て僕にある……」

ここまでの発言を、僕は、吉佐倉さんが貸してくれていたスマホに録音してある。こんなこと、法的に責任を問われたりしないのは分かってるけど、万が一ってことを考えてね。

そんな僕を、吉佐倉さんが泣きそうな顔で睨み付けてた。

「私だって…もう、法的には<成人>です……私にも責任があります…!」

「そうか……分かった…ありがとう……」

こうして僕たちは、最後に残った怪物達を手分けして片付けることになった。

エレーンさんが僕の車椅子を押してくれて、みほちゃんが怪物を掃って。

吉佐倉さんとシェリーちゃんが一緒に他を回って。

こうして、残りの怪物達は、二時間ほどで片付いたのだった。



「ごめんね…結局手伝わせることになってしまって…」

帰り際、僕の車椅子を押してくれてたエレーンさんに、スマホの音声翻訳機能を使ってそう話しかけた。

今はまだ日本語の勉強中のエレーンさんと、ドイツ語どころか英語もロクに話せない僕とじゃ、ここまで殆ど会話もなかったけど、せめてそれだけは伝えておかなきゃと思ったんだ。

「私は問題ではありません。気にしないです」

自動翻訳アプリを通した言葉はなんかおかしな感じだったものの、彼女が『気にしてない』と言ってくれてるんだろうなってことだけは伝わってきた。

みほちゃんとシェリーちゃんはさすがに詳しい状況までは察することはできていなかったけど、高校生のエレーンさんは、元々日本のアニメが好きなこともあってか、こういう突拍子もない話についてはそれなりに造詣が深くて、大まかなところは察することができてたみたいだった。

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