200万秒の救世主

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
49 / 93

アリーネ・エンデ・カシキの嘆息 その3

しおりを挟む
しかし、そうは言っても自らの身を守る大原則は『やられる前にやれ』の筈です。『政治家達はいったい、何を考えているんだ?』というのも正直な気持ちでした。私達軍人は見殺しにしてもいいのかと。

最初の頃はそうも思っていました。

だけど実際に訓練を行い模擬戦なども重ねるにつれ、『最初の一撃で、反撃さえできないように徹底的に叩きのめす』ということがいかに困難かを理解させられていきました。特に対テロリスト戦を想定した訓練では、完全に制圧に成功した筈にも関わらず、人質役に紛れていたテロリスト役の教官に自爆(に見立てたクラッカーを鳴ら)されてしまいました。

人質とテロリストの区別がつかなかったのです。

敵を完全に殲滅しようとしても、それは現実には非常に難しいことだというのが分かります。そして反撃されて結局は被害が出る。被害を防ぐという点において<先制攻撃>は、実は必ずしも有効な手段とは限らないという事実を思い知らされます。

しかし、理屈では分かっていても感情は納得してくれません。ましてや明らかに相手が敵意を向けているのにも拘らず向こうが手を出すまで待てというのはやはり理不尽としか思えないのです。

同じ神の御使いたる同胞を見殺しにするようなことが許されるのでしょうか?

私にはとてもそうは思えません。だから反撃されるというリスクはあっても先に攻撃すべきだと私は思うのです。

でも同時に、軍人たるもの、命令には絶対従わなければいけません。『攻撃するな』と命令されれば攻撃する訳にもいきません。

そんな葛藤の中、私が所属していた部隊が、テロリストの拠点を叩く為に派遣されました。

そのテロ組織は既に我が国に対して攻撃を仕掛けているので、苛烈な<神罰>を与えてやらなければいけません。先に攻撃したのは向こうなのですから、遠慮はいらないわけです。

作戦は順調に進み、私達の部隊はテロリストを順調に排除していきました。

ですが、テロリストは、こともあろうに人質を取って学校に立てこもったのです。その卑劣な行いに私は激しく憤りました。しかし、学校の職員や近所の住人らも人質となり、テロリストはその中に紛れてしまい、区別がつけられません。

私の部隊内でも、対応については意見が分かれました。

「たとえ犠牲者を出してでも先に攻撃し、テロリストを殲滅すべきだ」

という意見と、

「テロから守るべき市民を我々が攻撃するようなことをしては本末転倒だ」

という意見です。

これは私達を指揮する上官達の間でも同じ形で意見が分かれたようでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Resident Evil――選択すべき現実と異世界

鬼京雅
ファンタジー
2022年の年末。新宿に現実と異世界を行き来出来る「イセカイゲート」が現れた。そのイセカイゲートを巡り日本の人々はそれぞれの選択をし、大きく変化する。 ※小説家になろうでも掲載中

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

処理中です...