200万秒の救世主

京衛武百十

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自分に厳しく

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だけど、『自分に厳しくする』と言っても、限度があると思う。だからそういう時に、周囲の人間は『そこまで無理はしなくていいよ』って声を掛けてあげる必要もあるんだろうな。

まさに今の僕みたいに。

『厳しくしなければ調子に乗るだけだ』って思う人もいるだろうけど、自分に厳しい人は別に調子に乗ったりしないと思う。調子に乗ったり思い上がったりするのは、自分に甘い人だと思うし。

だからさ、他人に厳しくするよりも自分に厳しくしてればいいと思うんだ。

<優しい人>っていうのは、実は自分に厳しい人だって、今、すごく感じてる。

だって、今の僕のように面倒くさい病人を気遣うなんて、実際には鬱陶しくて邪魔くさくて苛々してしまっても別におかしくない筈なのに、そう感じてしまう自分を抑え付けて僕を気遣ってくれる。吉佐倉《よざくら》さんやアリーネさんは、自分自身に対して厳しく振る舞ってるんだって分かる。

鬱陶しい、面倒臭い、邪魔くさい。

そう思って投げだしてしまいそうになる、見て見ぬふりをしそうになる自分を抑えてるんだ。

何一つそんな風に悪感情を持たない人間なんて滅多にいないと思う。実際、吉佐倉さんだって最初は僕のことを毛嫌いしてた。その気持ちは今でもどこかにあるだろうし、むしろそれが普通なんじゃないかな。なのに彼女はそういう自分を抑え付けているはずなんだよ。自分に対して厳しくしてるんだ。

そう考えると、やっぱり、『他人に優しくする』というのは、『自分に厳しくする』のと表裏一体のことのような気がする。

中にはまったく悪感情を持たない聖人のような人もいるかもしれなくても、そんな人、僕はこれまで一人として会ったことがないよ。そんなの完全にドラマやアニメの中だけの存在だと思ってる。そういう極めて例外的なのを基準にして『こうあるべきだ』なんて、それこそ綺麗事じゃないのかな。

本当の聖人は、わざわざ自分で『こうあるべき』なんて考えなくても自然とそうできてしまう。と言うか、そうせずにはいられないんだろうな。

そんなの、僕には無理だよ。『面倒くさい』とか『やりたくない』とかついついそう思ってしまう自分を抑え付けなきゃ他人になんて優しくできない。

だから、吉佐倉さんやアリーネさんが、放り出して見て見ぬふりをしたいと思ってしまう自分を抑え付けてそうしてくれてるんだって感じるから、感謝したいなとも思えるんだ。

『優しくしてくれて当たり前』だなんて思ってたら感謝もできない気がする。少なくとも僕は、そんな風に思ってたら、他人に感謝なんてできそうにないな。

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