200万秒の救世主

京衛武百十

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他人に厳しい人間は

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こうなってみて分かったことは他にもある。

『他人に厳しい人間は、実は自分に甘い』

ってことかな。何しろ、今の状態の僕に厳しいことを言えるのは、たぶん、この苦しみを想像もしてないからだと思うし。僕が自分自身に対して厳しいことを言うのは、甘えたくなる自分を何とか抑えようとするからだけど、『病気だからって甘えるな』って言う奴は、『甘えてるように見えるのが不快』っていう、自分の感情に甘えてるからそんなことを言えるんだろうな。

そうだ。自分に厳しいのは勝手にすればいい。だけど他人に厳しいのは、実は自分に甘いっていうことの裏返しだって思うんだ。

自分の思う通りに他人を動かそうとするのは、『自分の思う通りに動いてほしい』っていう自分の気持ちに甘えてるんだって今なら感じる。

正直、僕もそうだった。他人が自分の思う通りに動くのが当たり前って思ってた時期もある。

ホント、ムシのいい話だよね。だってさ、自分は他人の思う通りに動かないんだよ? それなのに他人には自分の思い通りに動いてほしいって思ってるんだ。

こんなムシのいい、自分に甘えてる話もないよ。

自分の考えてることは正しいんだから他人は無条件にそれに従うべきだとかさ。

だけど今の僕は、それこそ他人に甘えることでしか生きることすらままならない。それなのに、他人厳しいことを言うなんて、それこそどうかしてる。アリーネさんにに車椅子を押してもらって、自分じゃ歩くこともままならないのに、『自分で歩け!』ってアリーネさんに思われても当然なのに、それには応えずに自分だけは厳しいことを言うとか、おかしいよ。

だから僕はもう、厳しいことは言わないでおきたい。厳しいのは自分にだけでいい。自分に厳しければ、他人があれこれ煩く言わなくても本人がちゃんとできるよね。

自分にできる範囲でだけかもしれないけど。

そうだ。いくら自分を叱咤しても、体が言うことを聞いてくれない。どんなに根性論を並べても、動かないものは動かないんだ。気合や気力で何でもどうにかなるなんて、ドラマやアニメの中だけだ。

気合や根性で癌を治すことはできないんだ。

それで治ったと思い込んでる人はそう思ってればいいかもしれないけど、それが他人にも通用するだなんて思わないで欲しい。自分が上手くいったからって他人も上手くいくはずだなんてその考えが<甘え>だとしか思えない。

まったく、どうしてこんな時になってそういうことに気付くかな。自分に厳しい人ほど他人に優しくできるのに。僕が他人に優しくできなかったのは、自分に甘かったからなのに。

それにもっと早く気付いてれば、こうやって癌になってたとしても、ロクに家族すら見舞いに来ないような人生を送らずに済んだかもしれないのにな。

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