200万秒の救世主

サムズアップ

「それは、宣戦布告ということデスね…？」

と、アリーネさんが厳しい顔をする。確かにクォ＝ヨ＝ムイが、本人の言う通りに＜神の力＞というのを持つなら、第七艦隊どころか地球上のすべての軍隊を相手にしても勝つのかもしれない。だけどそれじゃ、あの怪物とどっちが人類を滅ぼそうとしてるのか分からなくなる。

「やめてください、クォ＝ヨ＝ムイさん！　アリーネさんも真に受けないで！」

と僕が声を掛けるけど、二人は全く耳を傾ける様子がない。どうしてこうなるんだ…！？

すると吉佐倉さんが、どこから持ってきたのか発泡スチロールを両手にそれをこすり合わせて、「キィィイイィィィィッッ！」っていう、例のものすごく嫌な音をさせた。黒板を爪で引っ掻くのに次ぐ、苦手な人がすごく多い音だ。

僕はこの音は割と平気だけど。

「Noooooo!!」

アリーネさんが耳を押さえて苦悶する。対してクォ＝ヨ＝ムイはさすがに平然としてた。

「何やってんですか！？　そんなことしてる場合じゃないでしょう！？」

すごい剣幕でそう言う吉佐倉さんに、アリーネさんはダメージを負いながらもなおも、

「この程度で我らアメリカ海兵隊は屈しまセん！」

と、明らかに心折れそうな顔をしながらも口答えする。でも吉佐倉さんが再び発泡スチロールを構えると、

「No!!　話し合いまショウ！！」

って感じで遂に折れた。

そして、毒気を抜かれたのか、クォ＝ヨ＝ムイも不満そうに顔を逸らしながらも落ち着いたようだった。

「さすが日本人はアニメティックな対処法を考えさせれば世界一デスね」

とか、アリーネさんは変な形で感心してる。

「とにかく、今はあの怪物を退治するのが先です。神河内かみこうちさんはステージ4の癌患者なのに、辛い体をおしてやってるんです。協力してください。邪魔しないでください…！」

その吉佐倉さんの言葉に、アリーネさんもようやく罰の悪そうに表情になった。だけど、

「デスが、だったらなおさら、病人の出る幕じゃないでショウ。私は軍人デス。かかる事態に対処するにはまず頼るべき相手だと思いまスが？

見ればこの被害者達は手遅れの様でスね。そのような現場に遭遇スると、軍人でさえPTSDを発症スる者が出てきまス。ましてや一民間人のあなた方ではその精神的負担はずっと大きい。

悪いことは言いまセん。ここは私に任せなサイ」

確かに、アリーネさんの言うことも一理あるかもしれない。吉佐倉さんやみほちゃんにはさせられなくても、軍人のアリーネさんになら任せても……

「…お願いできますか…？」

思わずそう声が出た僕に、アリーネさんは、

「任せなサイ！」

と、満面の笑みで親指を立てたのだった。