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休息
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このクォ=ヨ=ムイをまともに相手にしていても仕方ない。これはもう訳の分からない<賑やかしのキャラ>と割り切って放っておくのが一番だと思う。
「失礼な奴だな。喰うぞ?」
とか言われてももう、取り合わない。
お腹がふくれてホッとしたのか、みほちゃんがうつらうつらとし始めた。時計が動いてないからよく分からないけれど、吉佐倉さんのスマホの時計を見る限り、既に夜の八時を過ぎているはずだ。僕達にとっては。僕達以外はまだ、
「残り、百九十七万千五百十五秒だ」
とクォ=ヨ=ムイがいう通り、百分の一秒程度しか経っていないんだ。
ここまで、トイレはコンビニとかを借りたけど、おしっこは体から離れた途端に(体と接触がある間は普通に流れるけど、滴とかは)空中に留まってしまうから気を遣う。一応、レバーを動かして水が流れるようにはしておいたけど、果たしてちゃんと流れるのかは確かめようがない。
そういう諸々が気になりながらも、僕達は何となく今の状況に慣れ始めている自分も感じてた気がする。
みほちゃんは眠そうにしてるし、僕も正直疲れてきた。病気の所為もあって体力はすごく落ちている。
「ごめん、今日はもう休ませてほしい」
そう言う僕に、吉佐倉さんが問い掛ける。
「ステージ4でしたっけ? 大丈夫…なんですか?」
ここまでの間に、僕が実は癌患者で、後は緩和ケアで苦痛を和らげながらその時が来るのを待つしかない状態なのを話してあった。最初は「だからどうしたんですか?」的な態度だった彼女も、明らかに疲れた様子の僕を見て、少しは気遣ってくれたようだ。
「正直、辛いね。痛み止めは持って来たけど、処方されてる分がなくなればどうなるか分からない」
痛み止めの薬を飲みながら、僕は応えた。
「それ、麻薬系の痛み止めですよね…」
僕が飲んでる痛み止めを見て彼女が言う。
「よく知ってるね」
「伯父が去年、癌で亡くなりましたから。その時に飲んでた薬と同じだと思ったんです」
「そうか…そういうこともあるよね」
『去年、癌で亡くなりましたから』。その言葉に、僕の体がぎくりと反応する。やっぱり、亡くなった人と同じなんだなと改めて感じてしまった。
「……さっきは、すいませんでした…」
不意にそんなことを言われて、「え?」と顔を上げてしまう。
「いろいろきついこと言ってすいませんでした……病気のこと、知らなかったし……」
そうか。気にしてくれてたんだな。
それが分かった瞬間、なんだか気持ちが軽くなった感じもする。
「ありがとう……そう言ってもらえるだけでも楽になったよ」
そう言いながら僕は、眠ってしまったみほちゃんを抱いた彼女と一緒にちょうど自動ドアが開いていた銀行のオフィスに入って、空いているベンチに体を横たえたのだった。
「失礼な奴だな。喰うぞ?」
とか言われてももう、取り合わない。
お腹がふくれてホッとしたのか、みほちゃんがうつらうつらとし始めた。時計が動いてないからよく分からないけれど、吉佐倉さんのスマホの時計を見る限り、既に夜の八時を過ぎているはずだ。僕達にとっては。僕達以外はまだ、
「残り、百九十七万千五百十五秒だ」
とクォ=ヨ=ムイがいう通り、百分の一秒程度しか経っていないんだ。
ここまで、トイレはコンビニとかを借りたけど、おしっこは体から離れた途端に(体と接触がある間は普通に流れるけど、滴とかは)空中に留まってしまうから気を遣う。一応、レバーを動かして水が流れるようにはしておいたけど、果たしてちゃんと流れるのかは確かめようがない。
そういう諸々が気になりながらも、僕達は何となく今の状況に慣れ始めている自分も感じてた気がする。
みほちゃんは眠そうにしてるし、僕も正直疲れてきた。病気の所為もあって体力はすごく落ちている。
「ごめん、今日はもう休ませてほしい」
そう言う僕に、吉佐倉さんが問い掛ける。
「ステージ4でしたっけ? 大丈夫…なんですか?」
ここまでの間に、僕が実は癌患者で、後は緩和ケアで苦痛を和らげながらその時が来るのを待つしかない状態なのを話してあった。最初は「だからどうしたんですか?」的な態度だった彼女も、明らかに疲れた様子の僕を見て、少しは気遣ってくれたようだ。
「正直、辛いね。痛み止めは持って来たけど、処方されてる分がなくなればどうなるか分からない」
痛み止めの薬を飲みながら、僕は応えた。
「それ、麻薬系の痛み止めですよね…」
僕が飲んでる痛み止めを見て彼女が言う。
「よく知ってるね」
「伯父が去年、癌で亡くなりましたから。その時に飲んでた薬と同じだと思ったんです」
「そうか…そういうこともあるよね」
『去年、癌で亡くなりましたから』。その言葉に、僕の体がぎくりと反応する。やっぱり、亡くなった人と同じなんだなと改めて感じてしまった。
「……さっきは、すいませんでした…」
不意にそんなことを言われて、「え?」と顔を上げてしまう。
「いろいろきついこと言ってすいませんでした……病気のこと、知らなかったし……」
そうか。気にしてくれてたんだな。
それが分かった瞬間、なんだか気持ちが軽くなった感じもする。
「ありがとう……そう言ってもらえるだけでも楽になったよ」
そう言いながら僕は、眠ってしまったみほちゃんを抱いた彼女と一緒にちょうど自動ドアが開いていた銀行のオフィスに入って、空いているベンチに体を横たえたのだった。
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