200万秒の救世主

京衛武百十

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頭を垂れて

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「わたし、かいぶつやっつけられる? そしたらパパとママのびょーきもなおる!?」

みほちゃんでも怪物を倒せるみたいなことをクォ=ヨ=ムイが言ったものだから、口の周りにソースと青のりを付けたまま、みほちゃんがそんなことを言い出した。

「え? でも危ないよ! こういうのは大人に任せておいたらいいんだから」

僕は慌てて言う。なのにみほちゃんは、

「わたしもパパとママのびょーきなおしたい! かいぶつやっつけてパパとママたすけたい!」

両手をぎゅっと握り締めて、ブンブン振りながら、みほちゃんは食い下がる。

「くかか! こりゃいい! お前よりよっぽどやる気ではないか。今からでも選手交代するか?」

「…く…!」

確かに、これまでやってきた様子から何か危険なことがある訳じゃないのは確かだと思う。最後までこれで済むのならみほちゃんにだってできるのかもしれない。でも、それでも僕はこんな小さな女の子にやらせるのは違う気がした。

なのに、

「いいじゃないですか。本人がやりたいって言ってるんですからやらせてあげれば。私もやりますよ。手分けしてやれば手っ取り早いでしょ。とにかくこんなこと、さっさと終わらせたいんです」

って、吉佐倉よざくらさんまで。

もしここで僕が切れて怒鳴ったところで、まったく事態が好転する予感がなかった。むしろみほちゃんは泣き出し、吉佐倉さんは反発しっていう未来しか想像できない。何しろ僕は、二人からまるで信頼されてないから。僕だって、信頼もしてない相手に怒鳴られて凄まれて大人しく従う気になることはないからね。

だけど……

「ごめん……これは本来、僕が引き受けたことなんだ。だから僕にやらせてほしい。途中で僕にもしものことがあった時には、引き継いでくれたらいいけど、それまでは……」

僕は二人の前で深々と頭を下げて、丁寧に言った。たぶん、これまでの人生の中で、こんなに真剣に<お願い>をしたことなんてないと思う。すると二人も戸惑うのが見えた。自分たちよりずっと年上の<大人>が、そんな風に丁寧に<お願い>をするのを見たことがなかったんだろうな。

だって大人って、横柄で、年下、特に子供は大人の言うことには従うべきだって態度が見え見えの、傲慢な存在だったから。腰が低いように見える大人も、内心では『こうしておけば言うこと聞いてくれるだろ』って目算を立ててるのが透けて見えてたし。

でもこの時の僕は、本気で、相手が小さな子供とか自分よりずっと年下の若い女の子とか関係なしに、こうべを垂れてお願いしたんだ。

大人なのに恥ずかしいとか、馬鹿にされるかもしれないとか、関係なしに。

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