我が娘が風呂上りにマッパで薄暗い部屋でPCの画面を見ながら不気味な笑い声を上げてるんだが?

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
80 / 92

仕事

しおりを挟む
ホームヘルパーさんとシッターさんに倣って、私も、保育園では極力切り替えていくのを心掛けた。園の子供達には、私の家庭の事情なんて関係ないからね。

それでも一応、園には、ダンナがステージⅣの癌だってことは伝えて、もしかすると急に休みを取らなくちゃいけないことになるかもしれないとは、伝えておいた。

「気を落とさないようにね……」

園長にはそう言ってもらえたけど、それが社交辞令でしかないことも分かってる。これでもし、私が何度も園を休むようなことがあれば、退職を促されるようなことになるだろうなというのもね。

だけど、そうなった時には、私は仕事よりも家族を取る。仕事は、私以外の誰かでも務まるだろうけど、家族の代わりはいないから。

この私の考えを批判する人もいると思う。でも、ダンナや観音かのんのことをロクに知りもしない赤の他人の言うことなんか、知ったことじゃない。

私はダンナの<妻>で、観音かのんの<母親>なんだ……!



不思議と、頭を切り替えるようにして仕事をしていたら、そんな風に思えるようになってきた。家にいるといつまででも泣いていられそうな気分だったのにね。

だから、こうやって外に出るのも必要なことなんだろうなとは思ったかな。

仕事自体も、切り替えるためのきっかけにはなりそうだ。そうじゃない人もいるだろうけど、少なくとも私にとってはなってくれた。

園の子供達と接してると、余計にそう思えてくる。

この子達も、それぞれ、いろんな事情を抱えてると思う。と言うか、抱えてる。

両親が遅くまで仕事で返ってこなくて、夜間保育も利用してる子。

両親が不仲で、精神的に不安定で、トイレに行きたいと自分から口にできず、何度もお漏らしをする子。

シングル家庭で、しかも母親が情緒不安定で、時々、迎えに来ないことがあって、結果として宿直の職員と一緒にお泊りになることがある子。

うちと同じで子連れ再婚なんだけど、再婚相手の素行があまりよろしくなくて、何度か児童相談所が聴取に来たことがある子。

これらは特に濃い<事情>だけど、そこまでじゃなくてもそれぞれ事情はある。

それを考えると、泣いてばかりもいられないなって……



こうしてなんとか気持ちを切り替えられた私は、

『悲観ばかりしてちゃ駄目だな』

とも思えるようになった。

厳しいのは事実でも、ダンナはまだ生きてる。死ぬと決まったわけでもない。

大丈夫。大丈夫。まだ可能性はある。

そんな風に思って、家に帰ってからネットでいろいろ調べてたら、

<ガンに効く健康酒>

ってのが。

『う~ん……十二万円か……でも、これでダンナの癌が治るなら……なんでも試してみたらいいよね。ダメ元で……』

そう思ってポチろうとしたら、

「ありがとう。でも、僕は、自分の好きなお酒しか飲まないから」

ダンナに止められたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ハズレガチャの空きカプセル

京衛武百十
現代文学
釈埴一真(しゃくじきかずま)と妹の琴美(ことみ)は、六畳一間の安アパートの一室に捨てられた兄妹である。会社勤めの一真の収入をあてにしていたはずの両親が、宝くじが当たったとかで、「お前らは勝手に生きろ。俺達はお前らの所為で台無しになった自分の人生をエンジョイするからよ」と吐き捨て、行先も告げずにいなくなったのだ。 一真はすでに成人し仕事をしていたからまだしも琴美はまだ十六歳の高校生である。本来なら保護責任があるはずだが、一真も琴美も、心底うんざりしていたので、両親を探すこともしなかった。 なお、両親は共に再婚同士であり、一真と琴美はそれぞれの連れ子だったため、血縁関係はない。 これは、そんな兄妹の日常である。     筆者より。 <血の繋がらない兄妹>という設定から期待されるような展開はありません。一真も琴美も、徹底した厭世主義者ですので。 また、出だしが一番不幸な状態なだけで、二人が少しずつ人間性を取り戻していく様子を描く日常ものになると思います。また、結果には必ずそれに至る<理由>がありますので、二人がどうしてそうなれたのか理由についても触れていきます。 あと、元々は『中年男と女子高生というシチュエーションを自分なりに描いたらどうなるだろう?』ということで思い付きましたが、明らかに方向性が違いますね。 なお、舞台は「9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと」や「織姫と凶獣」と直接繋がっており、登場人物も一部重なっています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...