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<叱る>と<怒る>

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私は、<叱る>という行為は、相手に反省を促すものだと思ってる。

その一方で、<怒る>は、単なる感情の発露でしかないと思うんだ。言ってしまえば、自分が受けたストレスを他へと転嫁しようという行為だ。

だから、怒らなくても叱ることはできるはずなんだよ。

でも同時に、人間は<感情の動物>だから、完全に感情を切り離してしまうことも簡単じゃない。それも分かる。

だけどね、『感情を切り離すことは難しい』というのを言い訳にして激昂する行為自体が<甘え>だと思うんだ。それを許して欲しいと、認めて欲しいと、そんな風に考えるのは、<甘え>なんだってさ。

そうは言っても人間は完璧じゃないから、つい怒ってしまうことはあると思う。私もこれまでに体調がよくなかったりするとイラっとしてしまうことはあった。でもそんな時には、ちゃんと謝るようにはしてた。

<謝罪>というのは、

『二度と同じ過ちは犯しません』

っていう<誓い>だと私は思ってるんだけど、それでもやっぱりついつい自分を抑え切れなくなることはあって、また同じことで謝る羽目になったりってのもあるだろうな。

だとしたらさ、子供が何度か同じ失敗を繰り返すこともあるんだっていうのも承知しておかなきゃね。

とにかく、自分ができないことを相手ができて当然と考えるのは違うと思うんだ。

あくまで、

『自分にできないことをできる人もいる』

っていうだけで。

その点では、観音かのんは、私が中学生だった頃にはできなかったことをやってみせてるよ。勉強だって私よりずっと進んでる。そして何より、意識することなく他人の存在を認めて許すってことができてる。

当時の私じゃ、彼女の足元にも及ばないくらい、立派な人間だ。

<母親>として学校の個人懇談に行った時にも、担任の先生に、

観音かのんさんは学校でも本当にいい子です。見ての通り成績も優秀で。歴史と体育と音楽は少し苦手としているようですが、それも平均よりは上ですし、他の教科で十分に補うことができてます」

って褒めてもらえた。だけど私が気になってたのは、成績よりも、

「ありがとうございます。正直、勉強のことは何も心配してないんです。ただ、ご存知のように私はこの子の実の母親じゃありません。世間一般に言うところの<複雑な家庭>なのも事実です。だからこの子が、学校で、他の子を傷付けたりしてないか、それだけが心配なんです」

と、個人懇談の度に確認させてもらってた。すると決まって、

「いえいえ、観音かのんさんはすごく優しい子ですから」

そう言ってもらえてた。この学校は、それぞれの生徒が抱える<事情>について丁寧に対応してくれる学校だったから、何か問題行動が見られたら、ちゃんと報せてくれる体制ができてたんだ。

だからこう言ってもらえるということは、その通りなんだよね。

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