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影の薄い子供

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保育園に通っている間も、観音かのんはすごく聞き分けが良くて、手がかからない、だからこそ印象に残らない、ある意味では影の薄い子供だった。

私自身、ダンナの子供じゃなかったら、彼女はこともきっとそんなに気にしてなかったんじゃないかな。

それでもよく見ていると、観音かのんは、本当に他の子に対してすごく優しくと言うか、鷹揚だった。

決して面倒見がいいというわけじゃないんだけど、誰に対しても特に態度が変わるわけでもなく、とにかく<普通>なんだ。

遊ぶ時にはすごく楽しそうだし、歌を歌えば元気に歌うし、ダンスをすればめいっぱい体も使う。それでいて、他の子を強引に従わせようとしたり、横柄に振る舞ったり、乱暴な態度をとることもなかった。

保育士達をひどく煩わせることもなく、聞き分けが良かった。

ああ、でも、年に一~二度、遊ぶのに夢中になってトイレに行くのを忘れて、おしっこを漏らすということがあったりもしたな。

だけどそれぐらいは本当に珍しいことでもないから、強烈に印象に残るわけでもない。

あと、普段はすごく元気なのに、たまに風邪をひいたりすると結構長引くみたいで、一週間くらいは休むことがあった。

最初は何か事情があってのことかと思ってたけど、彼女の家に押しかけるようになると、普通にただ風邪が長引いてるだけだと分かった。一度熱を出すとすんなりとは引いてくれないんだって。

さすがに初日はお見舞いも遠慮しつつ、三日目四日目になってくると、完全には熱は下がってなくてもいくらかは楽になってくるから、退屈になるみたいで、私がお見舞いに行くと喜んでくれた。

『絵本読んで!』

ってせがんでくるんだ。シッターさんが読んでくれるのよりも私の読み方のが好きなんだって。

シッターさんもプロだけど、私だって保育士。子供の相手をするプロの端くれだ。しかもシッターさんはあくまで<仕事>だからやっぱり一歩引いたところがあるらしい。私も、観音かのんが保育園に通ってた時には一歩引いてるって言うか、線を引くことを心掛けてたというのは確かにある。でも、観音かのんが卒園したらもう関係ない。それこそ<友達>みたいなものだ。

だから、一切手加減なく、思いっきり、情感を込めて読んであげた。

彼女は、「11ぴきのねこ」「さんびきのちいさいどうぶつ」「これはのみのぴこ」「三びきのやぎのがらがらどん」「みんなうんち」とかの、『ただただかわいい』っていうよりも、ちょっとシュールだったり、ちょっと切ない感じだったり、ちょっと怖かったりって感じのが好きだったな。

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