愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲

花嫁の歩く道、覚悟を携えて

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そしていよいよ、プレゼンの時間が迫ってきた。役員達が次々と会議室に集まってくる。

なお、JAPAN-2ジャパンセカンドでは、『役員を出迎えるために社員が並んで頭を下げる』などという非合理的で前時代的な<儀式>は行われない。役員の多くもたいていはフランクで、廊下で一般社員と談笑していたりということも少なくない。中には<取り巻き>を何人もぞろぞろと引き連れているタイプもいないわけではないものの、そういう者はむしろある種の<特技>によって役員に選出された形なので、少々特異な振る舞いも、利益をもたらす限りは大目に見られる。

ただ、今回のプレゼンにはそういうタイプの役員はきていない。

「気難しい方がいらっしゃらなくてよかったですね」

部下がホッとしたように口にしたのを、

「ダメよ。そういうことを言っては」

などとたしなめつつも、

「本音を言わせてもらえれば私も同感だけどね」

エリナ・バーンズが小さく舌を出す。そんな姿も『可愛らしい』。それができるほど回復できたのだと実感し、白百合2139-PB(千堂アリシア)もホッとする。

ジョン・牧紫栗まきしぐりの悪意から生じた一連の件は、エリナにとってもすっかり過去のものになっていたようだ。

ならば、今はこのプレゼンに集中するのみ。

「時間です!」

スタッフの一人が声を上げると、第一ラボの担当者達の表情かおも引き締まり、アリシアは、スッと、

<その時を待つ花嫁の表情>

となった。それがまた、息を呑むほどに美しい。男性も女性も関係なく魅了される。造形が美しいのはもちろんなのだが、空気感のようなものに何とも惹き付けられてしまうのだ。

一種の<凄み>さえそこにはあると言えるだろうか。

結婚式場と化した会議場に姿を現した文金高島田姿の白百合2139-PBに、やはりその場にいた誰もが息を呑む。

「おお……」

息を呑んだ上で溜息をもらす者さえいた。

厳かな空間を、しゃなり、しゃなり、と白百合2139-PBは滑るように歩を進める。顔はやや俯き加減ながらもその視線はしっかりと自身の進む道を見据え、これからの人生に対し覚悟を持って臨むという気概さえ感じられた。

ロボットであるにも拘らず。

そんな白百合2139-PBが進む先には、役員達の姿。しかしそれは、ある意味では<背景>に過ぎなかった。なにしろ、役員らの前には、礼装の男性が立っていたのだ。

花婿の格好をした千堂京一せんどうけいいちであった。

そう、機体こそ白百合2139-PBのそれではあったものの、

<千堂アリシアと千堂京一の結婚式>

というていで、プレゼンを行うのである。

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