愛しのアリシア

ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲

千堂アリシアについて、現在の公式見解

こうして、それぞれが事態収拾のために働いている中で、千堂アリシアは、紫音しおんの自宅で団欒を味わっていた。

「千堂さんは、ご自身が新しいメイトギアの試作品なんですってね」

紫音の母親の桃香が、紅茶を手にしながら口にする。

「はい。そうなんです。ただ、私をそのまま量産化するのではなく、あくまで今後のメイトギアの方向性を検討するための＜コンセプトモデル＞と言った方が近いですね」

笑顔で応えるアリシアに、

「確かに、アリシアさんはすっごい人間っぽいって感じますね。本当に生きてるみたい」

紫音も正直な印象を口にする。それに対しては、

「そうおっしゃっていただけるのは嬉しいんですが、今のAIの性能では、ここまで人間ひとを再現しようとするとリソースを奪われてしまって、総合的な性能が下がってしまうんです。なので、実際に商品化されるものについては、やっぱりここまではやらないしやれないというのが結論ですね」

現在のメイトギア課としての見解を正直に述べた。なお、ロボットは『嘘が吐けない』ので、『新しいメイトギアの試作品なんですってね』との言葉に『そうなんです』と断定することは本来できないはずだったが、現在ではメイトギア課の公式見解として、

＜新しいメイトギアの試作品＞

＜今後のメイトギアの方向性を探るためのコンセプトモデル＞

としているので、現時点では＜嘘＞ではない。むしろ、

＜心を持っているロボット＞

と断定的に称する方が、

『現時点では千堂アリシアのそれは＜心＞と断定されていない』

ので、嘘になってしまうのだ。加えて、＜AI・ロボット排斥主義者＞の格好の攻撃材料になってしまったり、逆に、＜ロボットにも心があり、人間と同等の権利を与えるべきだと考える者達＞に利用される可能性も少なくないがゆえに、それらのリスクをコントロールするためにもこの見解が必要だった。

紫音も桃香も、ロボットにはそこまで詳しくないので、裏も表もなく今のアリシアをただ受け入れてくれているだけだが。そこに、

「お茶のおかわりは、いかがですか？」

と、声が掛けられる。

＜マリアン2118-HHE（ホームヘルパー・エントリー）＞というメイトギアだった。アリシアシリーズをはじめとしたハイグレードなメイトギアは高価なため、手頃な価格で購入できるようにと、機能を絞って作られたメイトギアである。ただ、一般的には、

『どうせ買うなら』

とアリシアシリーズにニーズが流れてしまって、事実上の不人気モデルになってしまっていたりもする。とはいえ、

『メイトギアには家の雑事だけしてもらえればいい』

的に考えている安藤家では、マリアン2118-HHEで十分なのだった。