愛しのアリシア

ロボット花嫁、アリシアのブライダル狂騒曲

パン屋アンドゥ、その立ち位置

エリナ・バーンズらが、

『自分達は＜幸せそうな姿＞というものを感覚的に理解していない』

という事実を再認識しているのと同時に、白百合2139-PB（仮）にリンクしている千堂アリシアは、パン屋＜アンドゥ＞の看板娘である紫音しおんの仕草からヒントを得ようということを考えていた。ゆえに、

「私は、紫音さんに改めて協力をお願いしたいと考えます。なので、紫音さんのお店で働きたいです」

と発言した。

それに対してエリナは、

「そうね。可能であればそういうアプローチもアリかもしれない。私の方からも協力をお願いしてみます」

と応えた。

何度も触れてきたように、JAPAN-2ジャパンセカンドは、ありとあらゆる業種・業態の企業を内包した＜総合企業体＞である。そしてパン屋アンドゥも実はあくまで、

＜JAPAN-2ジャパンセカンドの一部署＞

という扱いになる店であった。正式には、

＜流通小売業部食品流通課ベーカリー係アンドゥ班＞

として登録されている。なので、協力を求めるのは別に不思議でも何でもない。

ただ、実際にJAPAN-2ジャパンセカンド内で働いている者達はそこまで意識していない。十八歳になれば成人となって希望すれば誰でも＜JAPAN-2ジャパンセカンドの従業員＞になれるものの、それはあくまで、

『日本人が日本の法律の下で保護され権利を保障されると同時に日本国民としての義務を負う』

のとニュアンス的には大きな違いがなく、実感として、

『自分はJAPAN-2ジャパンセカンドの従業員である』

的な認識をしている者は少なかったりもするのだ。どちらかと言えば、

『JAPAN-2ジャパンセカンドという国の国民である』

そんな風に思っていると言った方が近いだろうか。だからパン屋アンドゥを立ち上げた紫音しおんの母親も、『普通に起業した』という感覚でしかない。

＜流通小売業部食品流通課ベーカリー係＞に対してプレゼンを行い、予算を調達し、様々な部署に協力を要請してアンドゥを立ち上げたというわけだ。

ただし、当然のこととしてJAPAN-2ジャパンセカンド内の経済の活性化に寄与していないと判断されれば業務改善命令が出され、それでもなお改善が見られないとなれば＜解散＞を命じられることもあるので、必ずしも安穏とはしていられない。

まあ、

『美味しいパンを提供し、他のJAPAN-2ジャパンセカンドの授業員らの健康と士気向上に寄与する』

ことが求められているとでも言えばいいだろうか。人気がなければそれは当然ながら『寄与している』とは言い難いわけで、そのような事業を存続させる意味はないのだから。

この点、アンドゥはまずまずの業績を確保しているので、優良と言えるだろう。