愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行

クラヒ、高揚する

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それは、確かに、

<あのアリシア>

だった。表情そのものはあの頃と比べて大人びたようにも見えるものの、けれど間違いなく、

『あのアリシアが成長したらこの感じになるだろうな』

と思える笑顔だった。

「おう! 元気だったか? アリシア!」

応えるクラヒの声も、普段よりもずっと張りがある。テンションが上がっているのが分かる。高揚してるのが分かる。それを、千堂アリシアの方も、この機体、<アリシア2234-HHC>が持っているデータの一部から察せられてしまった。

クラヒの健康管理も役目の内なので、ある程度の基本的なデータは引き継いでいる。普段の声の調子や表情も含めて。さすがにセンシティブな部分までは開示されないが。

それらのデータから健康状態はおおむね良好なのを理解し、

「クラヒもお元気そうで何よりです」

改めて笑顔を浮かべる。

そんな彼女にクラヒは、

「まあな。それより、お前の方はどうなんだ? 千堂に大事にしてもらってんのか?」

とも問い掛ける。するとアリシアは、

「もちろんです♡」

満面の笑顔で応えた。その笑顔がすべてを物語っていた。アリシア2234-HHCの<作られた笑顔>とは比べ物にならない、笑顔らしい笑顔がそこにあった。

「はっ! その顔見てりゃ確かに大事にされてんだなってのは分かるわ。アホくせえ……!」

言いつつ頭をぼりぼりと掻くクラヒの姿は、少しヤキモチを妬いているように見えた。いや、『見えた』のではなく実際にヤキモチを妬いていたのだ。自分じゃない人間の下で幸せに暮らしている事実が悔しくて。

なのにクラヒは、そんな自分を振り払うかのように、

「まあとにかく、仕事についちゃ、その機体から引き継いでる通りだ。で、仕事以外の時には勝手にしろ。こんな町に見るところがあるかどうかは知らねえが」

言い放った。そんな姿もなんだか『可愛く』見えて、アリシアはまた微笑んでしまう。

「分かりました」

言いつつ、アリシア2234-HHCから引き継いだ作業をこなす。と、さすがに以前のように転んだりぶつかったりしない彼女を見て、

「ふふん、前よりゃ仕事もできるようになったのかよ」

皮肉っぽく口にする。けれど彼のそういう物言いも慣れたもので、

「このアリシア2234-HHCのおかげですよ。基本動作は任せてますから」

作業をしながら笑顔で応える。以前のアリシアならこんなことをすれば何か失敗をしたものだが、さすがに機能がほぼ健全なアリシア2234-HHCに動作を任せているとなれば、問題はなかったのだった。

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