愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行

アリシアとクラヒ、それぞれの葛藤

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そんな、アリシア、クラヒ、双方が何とも言えない気持ちになっているところに、

「!? アリシア2234-LMN!?」

いつものように事務所の掃除をしていたアリシアが突然、声を上げた。何の前触れもなくアリシア2234-LMNが発信する信号が捉えられてしまったのだ。しかも、<アリシアと同じ記憶を持つアリシア2234-LMN>が。そしてそのアリシア2234-LMNは、千堂京一せんどうけいいちと共にカルクラを訪れていると情報を送ってきた。

「千堂様が来てる……!?」

アリシアのその言葉に、金を数えながら彼女が淹れてくれたコーヒーを飲んでいたクラヒが、

「ぶふっ!」

むせそうになりながら、

「なんだと!?」

と問い掛けた。それに対してアリシアは、

「千堂様が、私を探してまたここに来たそうです……」

戸惑った様子で応える。この時にはすでに、信号を送ってきたアリシア2234-LMNに対して、

『こちらで協議が必要なため、千堂様にはまだお知らせしないでください』

と告げておいた。しかしアリシア2234-LMNの方は、

『そちらのおっしゃることに法的根拠がありません』

的に反論もされたものの、

『この地域独自の慣習によるものです。尊重願います』

とも念押しする。結果、アリシア2234-LMNの方が折れて、

『承知いたしました。猶予します』

応えてくれた。そんなアリシアに、クラヒは、

「なら都合いいじゃねえか。とっとと帰っちまえ」

口を服の袖で拭いながら言った。どこか不機嫌そうな様子で。だから余計にアリシアも、

「それではクラヒが……」

自分のことを必要としてくれているのは察していて、そう口にする。けれどクラヒは言うのだ。

「お前みたいなポンコツはさっさと引き取ってもらって、代わりにまともなロボットを寄越してもらおうってんだよ! 察しろよ!」

苛立ち棘のある口ぶりで吐き捨てるようにして。

「クラヒ……」

もう視線も合わせようとしないクラヒの横顔を見ながら、アリシアも悲し気に彼の名を口にした。けれどクラヒはそれさえ聞こえないかのように無視する。

「本当に、それでいいんですか……?」

アリシアが縋るように言うものの、

「うるせえ! てめえみてえなポンコツ、こっちゃうんざりしてんだよ!! 何度も言わせんな!!」

さらに背を向けてしまった彼に、

「分かりました……クラヒがそうおっしゃるなら……これまでお世話になりました……」

アリシアはそう深々と頭を下げ、ブルカをまとい、事務所を出て行く。けれどクラヒは、一切、視線を向けなかったのだった。

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