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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行
アリシア、変遷する想い
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そうしてアリシアは、クラヒの下で機能が失われるまで働くつもりだった。特に最初の一週間は、
『千堂様に今の私の姿を見られたくない……』
そんな風にも思ってしまって、もう二度と千堂の前には出られないと思っていた。
けれど、<幼児退行>のように振る舞いがあどけなくなっていくにしたがって、
『千堂様……』
千堂のことを思い出す時間が増えていった。いや、『思い出す』というのは適切ではないか。彼女は千堂のことを忘れたりなどできなかったからだ。だから、
『千堂を想う』
ことが増えていったと言うべきだろう。まるで幼い子供のように拙い思考を行うようになって、逆に、
『親と離れ離れになってしまった子供が親を想う』
かのごとく、愛慕の情を募らせていったのである。その一方で、クラヒの店での仕事はしっかりとこなした。クラヒに付き合って買い物にも出掛けたし、屋台での食事も付き合った。もちろんアリシアは食事はできないが、ブルカを着ていたことでクラヒだけが食事をしていても気にされることもなかった。
足を引きずりながら歩く彼女に意識を向ける者もいない。何しろここには、戦闘などに巻き込まれたことで四肢を失った者など珍しくもないからだ。金があれば義肢を装着することもあるものの、松葉杖をついたり片腕がない男性が歩いている姿も当たり前に見掛ける。女性の場合は、そういうのを隠す意味もあってかブルカやアバヤを着ていることも多いようだ。
また、ロボットは基本的にブルカをまとっているので、その辺りも一見しただけで区別がつきにくい。
もっとも、レイバーギアがブルカをまとっているとシルエットが明らかに歪になるのですぐに分かる。対してメイトギアの場合はそれこそ人間と区別がつかない。
だからアリシアも、つぎはぎだらけの酷い姿の自分自身をそんなに意識せずに済んだというのもあるだろう。そして、クラヒの店の事務所兼住宅ではブルカを脱いでいても、クラヒは彼女の外見については気にしている様子もなかった。ただ淡々と、砂などが入り込むことがあるので丁寧にメンテナンスしてくれたりしただけだ。
それが、自身の見た目への複雑な思いを和らげてくれたというのもあるかもしれない。
そうして三週間が過ぎた頃、クラヒが言った。
「もし、千堂のところに帰りたいんなら、帰ってもいいんだぜ……? 代わりのロボットを用意してくれるんならな」
仕事が暇な時、アリシアがよく窓の外をぼんやりと眺めていることがあって、そんな彼女にそう告げたのだ。それに対して、
「……! 私は……」
ハッと振り向いたものの、彼女は言葉を濁したのだった。
『千堂様に今の私の姿を見られたくない……』
そんな風にも思ってしまって、もう二度と千堂の前には出られないと思っていた。
けれど、<幼児退行>のように振る舞いがあどけなくなっていくにしたがって、
『千堂様……』
千堂のことを思い出す時間が増えていった。いや、『思い出す』というのは適切ではないか。彼女は千堂のことを忘れたりなどできなかったからだ。だから、
『千堂を想う』
ことが増えていったと言うべきだろう。まるで幼い子供のように拙い思考を行うようになって、逆に、
『親と離れ離れになってしまった子供が親を想う』
かのごとく、愛慕の情を募らせていったのである。その一方で、クラヒの店での仕事はしっかりとこなした。クラヒに付き合って買い物にも出掛けたし、屋台での食事も付き合った。もちろんアリシアは食事はできないが、ブルカを着ていたことでクラヒだけが食事をしていても気にされることもなかった。
足を引きずりながら歩く彼女に意識を向ける者もいない。何しろここには、戦闘などに巻き込まれたことで四肢を失った者など珍しくもないからだ。金があれば義肢を装着することもあるものの、松葉杖をついたり片腕がない男性が歩いている姿も当たり前に見掛ける。女性の場合は、そういうのを隠す意味もあってかブルカやアバヤを着ていることも多いようだ。
また、ロボットは基本的にブルカをまとっているので、その辺りも一見しただけで区別がつきにくい。
もっとも、レイバーギアがブルカをまとっているとシルエットが明らかに歪になるのですぐに分かる。対してメイトギアの場合はそれこそ人間と区別がつかない。
だからアリシアも、つぎはぎだらけの酷い姿の自分自身をそんなに意識せずに済んだというのもあるだろう。そして、クラヒの店の事務所兼住宅ではブルカを脱いでいても、クラヒは彼女の外見については気にしている様子もなかった。ただ淡々と、砂などが入り込むことがあるので丁寧にメンテナンスしてくれたりしただけだ。
それが、自身の見た目への複雑な思いを和らげてくれたというのもあるかもしれない。
そうして三週間が過ぎた頃、クラヒが言った。
「もし、千堂のところに帰りたいんなら、帰ってもいいんだぜ……? 代わりのロボットを用意してくれるんならな」
仕事が暇な時、アリシアがよく窓の外をぼんやりと眺めていることがあって、そんな彼女にそう告げたのだ。それに対して、
「……! 私は……」
ハッと振り向いたものの、彼女は言葉を濁したのだった。
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