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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行
エドモント、アリシアに問い掛ける
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物事には、常に様々な面がある。それを理解せず自身に都合のいい部分だけしか見なければ、どんなものでも素晴らしいようにも見えたりするだろう。
『昔はよかった』
などと口にしてみたり、
『理想の社会を築くことができる』
と大言壮語を吐くこともできるのだと思われる。
しかし、昔は昔で様々な不具合もあったし、理想の社会を築こうとしつつ、残念ながらいまだにそれは実現できているとも言い難い。
JAPAN-2もアルビオンも、それぞれに不具合は抱えている。
<自分にとって都合の悪いこと>
<自分の好みに合わないこと>
そういうものはどんな社会でもいつの時代でも存在したはずなのだ。その事実から目を背けていては、幸せになどなれないだろう。いや、都合の悪いことから徹底的に目を背けて耳を塞いで気付かないふりができて都合のいい部分だけを見ることを貫けるのなら、それはそれで幸せなのかもしれないが。
本当にちょっとしたことで崩れ去る、砂上の楼閣のような幸せではありつつも、しかも実際に、そういう形で『自分は幸せだ』と思っている人間もいるのだろう。
もっとも、そういう幸せは、今回のような事件で容易く失われる。被害者側ももちろんだし、加害者側の親族もそうだった。いくら被害者側に対して屈辱的なまでの贖いを実践しようとも、
『身内から犯罪者を出した』
という不名誉は消えてなくならず、事あるごとにそれを蒸し返されることになるのだ。そしてそのストレスに耐えかねて新たに問題を起こす者も出てくるかもしれない。
実に人間という生き物の愚かさを如実に表した事実である。
けれど、それでも、千堂アリシアは人間を見捨ててしまえない。『人間なんていなければいい』とは思ってしまえない。
ロボットであるがゆえに。
そして同時に、人間である千堂京一を愛しているがゆえに。
オックスフォード・スクエアで、<この世の春>とばかりに華やかな暮らしを満喫しつつ、一歩路地に入れば何の予兆もなく犯罪に巻き込まれたりもするという矛盾の中で、人間達は生きている。
その姿を、千堂アリシアはしっかりと見た。これもまた、人間という生き物の姿なのだ。
こうしてアルビオンを<堪能>し、エドモント・ジョージ・フレデリックの屋敷へとアリシアは帰ってきた。
「おかえり。どうだったかね? アルビオンの街は」
仕事を終えて食事も終え、ガウンをまとってリビングで寛いでいたエドモントがそう問い掛ける。それに対してアリシアは、
「とても華やかですね」
と応えた。決して嘘ではなかった。確かに華やかな印象だったのだ。アリシア自身も、それは楽しむことができたのである。
『昔はよかった』
などと口にしてみたり、
『理想の社会を築くことができる』
と大言壮語を吐くこともできるのだと思われる。
しかし、昔は昔で様々な不具合もあったし、理想の社会を築こうとしつつ、残念ながらいまだにそれは実現できているとも言い難い。
JAPAN-2もアルビオンも、それぞれに不具合は抱えている。
<自分にとって都合の悪いこと>
<自分の好みに合わないこと>
そういうものはどんな社会でもいつの時代でも存在したはずなのだ。その事実から目を背けていては、幸せになどなれないだろう。いや、都合の悪いことから徹底的に目を背けて耳を塞いで気付かないふりができて都合のいい部分だけを見ることを貫けるのなら、それはそれで幸せなのかもしれないが。
本当にちょっとしたことで崩れ去る、砂上の楼閣のような幸せではありつつも、しかも実際に、そういう形で『自分は幸せだ』と思っている人間もいるのだろう。
もっとも、そういう幸せは、今回のような事件で容易く失われる。被害者側ももちろんだし、加害者側の親族もそうだった。いくら被害者側に対して屈辱的なまでの贖いを実践しようとも、
『身内から犯罪者を出した』
という不名誉は消えてなくならず、事あるごとにそれを蒸し返されることになるのだ。そしてそのストレスに耐えかねて新たに問題を起こす者も出てくるかもしれない。
実に人間という生き物の愚かさを如実に表した事実である。
けれど、それでも、千堂アリシアは人間を見捨ててしまえない。『人間なんていなければいい』とは思ってしまえない。
ロボットであるがゆえに。
そして同時に、人間である千堂京一を愛しているがゆえに。
オックスフォード・スクエアで、<この世の春>とばかりに華やかな暮らしを満喫しつつ、一歩路地に入れば何の予兆もなく犯罪に巻き込まれたりもするという矛盾の中で、人間達は生きている。
その姿を、千堂アリシアはしっかりと見た。これもまた、人間という生き物の姿なのだ。
こうしてアルビオンを<堪能>し、エドモント・ジョージ・フレデリックの屋敷へとアリシアは帰ってきた。
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「とても華やかですね」
と応えた。決して嘘ではなかった。確かに華やかな印象だったのだ。アリシア自身も、それは楽しむことができたのである。
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