愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行

AIやロボット、でしゃばり過ぎず人間を見守る

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「そうか……そうだよね……」

少女も少し笑みを浮かべて、でも少し寂しそうに、

「じゃあね」

と手を振って歩き出した。その姿を、警備用のレイバーギアが見守る。それを確認して千堂アリシアも、笑顔で手を振った。そうして角を曲がった少女の姿が見えなくなったところで、地下鉄の駅へと戻り、根岸ねぎし右琉澄うるずの勤め先のバーがある区画へと帰ってきた。

そしてそのまま彼を迎えに行く。仕事の終わりの時間が近付いていたからだ、

「あ、なんだ。終わったのか?」

店の裏口から出ると、自身のアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様が待っていたことに気付いた右琉澄うるずが声を上げる。

「はい。今回の件についてはおおむね無事に」

千堂アリシアは笑顔で応えた。

徹底的に各関係機関に連絡まで取っておいてこうやって特に大きな騒動にもならずに終わったことに拍子抜けする者もいるだろう。しかしそれはむしろ逆である。しっかりと連携を取ったからこそ余計な動きをせずに推移を見守れたのだ。そうでなければパトカーの一台も寄越して警察が少女を保護しようとしてそれに反発した少女と一悶着を起こすようなこともあったかもしれない。連携を取り千堂アリシアが少女を保護していたがゆえに表面上は何事もなく終えられたというのが正しい。

状況が確認できてさえいれば慌てることもないし、加えて、今後もし、少女がまた家出を図ったとしても今回の対応のデータは当面残っているので、それを参考にできるだろう。

分かりやすく周囲がドタバタするだけが解決方法ではないのだ。

いや、厳密には少女が家出をする原因となったであろう家族との問題は何も解決していないのだが、それについても、改めて今回のようなことが何度も繰り返されるようでなければ、児童相談所等はあくまで見守るだけに留めてくれる。いきなり虐待の疑いで警察が押し掛けてくることもない。

これも、ロボットが見守ってくれてるという実績があればこそである。

過度にでしゃばることなく、しかし水面下では綿密に連携して人間を守っている。それがAIやロボットの本来の在り方だった。

人間なら『面倒臭い』と考えて放置してしまう、見て見ぬふりをしてしまう、逆に具体的な方策もないのに要らぬお節介をして騒ぎを大きくする。そういうことがないように配置されているのだ。

だから、それこそ何事もなかったかのように、千堂アリシアは右琉澄を迎えて共に彼の自宅へと帰り、右琉澄が食事の用意をしている間に部屋の片付けなどをしたのだった。

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