愛しのアリシア

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
592 / 804
ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

間倉井邸、斎場となる

しおりを挟む
深夜。朝倉病院を発った、好羽このはの遺体を乗せた業者のフローティングバスが、明帆野あけぼのに到着。間倉井まくらい診療所に隣接していた彼女の自宅に運び込まれた。

この時も、遺体を収めた棺を運んだのは喪服に身を包んだメイトギアだったが、遺体を安置する場所を整えたのは人間の職員である。

そして、かねてから、

「自分が死んだ時はここを斎場にしておくれ」

と告げていた部屋が、故人の遺志に従い斎場として設えられていた。建設された当初からそうすることを前提に作られた部屋なので、実にやりやすかったようだ。

道路に接した庭に面し、弔問に訪れる者も楽に出入りできるように考えられている。しかも、これまでにも明帆野あけぼので亡くなった住人の斎場としても何度か使われており、こなれている。

それらの住人の多くは身寄りのない者達であり、好羽このはが親類代わりに対処したものだった。

「安心して死ねないような社会はロクなもんじゃない」

とも、彼女は生前口にしていたという。だから自宅を、身寄りのない者の最後の受け入れ先として使っていたのだ。

そこに、森厳とレティシアの姿があった。結愛ゆな達とは縁も薄いので連れてくることはなかった。見ず知らずの赤の他人の通夜に参加しろというのも、好羽このは自身が、

「見ず知らずの人間に来られても迷惑なだけだよ!」

そんな風に言ってたらしい。

その一方で、明帆野あけぼのの住人達が何人も集まってきていた。その手には、酒やつまみを持って。皆、

『湿っぽいのが嫌いな間倉井まくらい先生のために賑やかに送り出してやろう』

という考えで集まってきたのである。

その中には、辻堂つじどう安吾あんご館雀かんざく立志りっし訓臣のりおみの姿もあった。美月みつきは、まだ秀青しゅうせいが客として残っているので、明帆野あけぼの荘で待機だ。

また、隣接する間倉井まくらい診療所に入院中のニーナも、本人は弔問を希望したが、

「先生からのお達しです。『入院患者はおとなしくしていろ。迷惑だ』とのことですので、外出の許可は出せません」

と、好羽このはから命じられていた亜美が引き留めた。その上で、

「こちらにて、弔意を示していただけます」

病室に備え付けらたパネル型モニターに祭壇が映し出され、その前に焼香が用意された。

間倉井まくらい先生……」

ニーナは、眠っている寛慈かんじを抱いてモニターの前に立ち、

「先生、寛慈です。おかげさまでとても元気です……本当にありがとうございました……」

泣きながら大きく頭を下げた。彼女は焼香のやり方を知らなかったが、それも別に構わない。好羽このは自身が、生前、

「死んだ人間の悼み方なんざ、人それぞれだ。悼みたい奴がやりたいようにやりやすいように悼めばいい」

と言っていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

凶竜の姫様

京衛武百十
SF
ここは、惑星<朋群(ほうむ)>。多数のロボットに支えられ、様々な特色を持った人間達が暮らす惑星。そこで鵺竜(こうりゅう)と呼ばれる巨大な<竜>について研究する青年、<錬義(れんぎ)>は、それまで誰も辿り着いたことのない地に至り、そこで一人の少女と出逢う。少女の名前は<斬竜(キル)>。かつて人間を激しく憎み戦ったという<竜女帝>の娘にして鵺竜の力を受け継ぐ<凶竜の姫>であった。 こうして出逢った斬竜に錬義は戸惑いながらも、彼女を見守ることにしたのだった。

晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。 どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。

薄幸の佳人

江馬 百合子
恋愛
この世のものとは思えない美貌を持つ藤泉院 無月。 孤高の名家の令嬢である彼女は、父と継母に屋敷に閉じ込められ、緩慢な日々を過ごしていた。 そんな彼女の心の支えは、幼馴染の春乃宮 日向だけ。 この先もこの屋敷でずっと生贄のように生きていくのだと思っていた。 そんなある日、青年、深草 槙とその妹女子高生の深草 一葉と出会い、運命は大きく動き始める。 誰よりも世界を知らなかった令嬢と、彼女を取り巻く人々の現実味のない世界が、解き明かされる過去とともに、少しずつ色を帯びていく。 それは日々色味を増して。 そして、彼女は希望と恋を知る。 今、彼女は孤独な屋敷から歩み出したばかり。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...