581 / 804
ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
すべての人間に平等に分け隔てなくもたらされる、結果
しおりを挟む
そんな風に、危うい感じではありつつ何とか間倉井診療所の運営は上手くいっていたが、その一方で、間倉井医師の意識は戻る様子はなかった。
と言うよりも、もうこの時点で、間倉井医師の脳そのものが急速に崩壊、萎縮し始めていたのだ。活動限界を迎え、機能が失われるように。
それはつまり、<脳死状態>に向かっているということである。すでに、脳の活動そのものが大きく低下していた。もしこの時点で意識が戻ったとしても、それはもう、以前の間倉井医師ではなくなってしまっていただろう。
朝倉病院側も回復のための処置を行うものの、そのどれも功を奏することはなかった。まるで、間倉井医師自身がそれを拒んでいるかのように。
「先生……」
血管を人工のものに置き換えるオペそのものは完璧に成功させた藤田医師が、集中治療室で人工呼吸器に繋がれた間倉井医師の姿を見詰めながら、悔しそうに眉を顰めていた。
けれどこれは、生きている以上はいつか訪れるものだ。遅いか早いかだけで、すべての人間に平等に分け隔てなくもたらされる結果である。
それを間倉井医師は受け入れたということか。
後は、完全に脳が機能を失ったと、<脳死>に至ったと判定されれば、治療は終了する。脳死の判定は、医師二名と、メーカーの異なるAI二台による、クアドラプルチェックによって行われる。AIは、メーカーごとにほんのわずかではあるが判定にブレがあり、それを補うために、このような形がとられるのだ。
今はまだかろうじて脳波が検出できるものの、それすらすでに<生きている人間のもの>とは言えないレベルだった。まだ生きている脳細胞が不規則に発するただのノイズのようなものだ。
そしてこれを受けて、間倉井診療所の後任となる医師の選定が始まった。間倉井医師としても、自身に残された時間が少ないことは承知していたので、数年前から準備は行っていたものである。
すると、律進慈医科大の院に研究職として残っていた若い医師が、新たに名乗りを上げてくれた。これで、他の候補と合わせて様々なヒアリングなども行い、最終的に間倉井医師の後任が決まることになる。
本当ならここで奇跡が起こることを願って、そして間倉井医師自身が回復してみせることが望まれているのかもしれないが、そういうことは滅多にないからこそ<奇跡>と呼ばれるのであって、奇跡をあてにした対処など、まっとうな人間がすることではない。本当に奇跡が起こった時にはすべてを白紙にすればいいだけである。
人間はいつか死ぬのだ。そして間倉井医師のそれは、きわめて順当なものであった。
と言うよりも、もうこの時点で、間倉井医師の脳そのものが急速に崩壊、萎縮し始めていたのだ。活動限界を迎え、機能が失われるように。
それはつまり、<脳死状態>に向かっているということである。すでに、脳の活動そのものが大きく低下していた。もしこの時点で意識が戻ったとしても、それはもう、以前の間倉井医師ではなくなってしまっていただろう。
朝倉病院側も回復のための処置を行うものの、そのどれも功を奏することはなかった。まるで、間倉井医師自身がそれを拒んでいるかのように。
「先生……」
血管を人工のものに置き換えるオペそのものは完璧に成功させた藤田医師が、集中治療室で人工呼吸器に繋がれた間倉井医師の姿を見詰めながら、悔しそうに眉を顰めていた。
けれどこれは、生きている以上はいつか訪れるものだ。遅いか早いかだけで、すべての人間に平等に分け隔てなくもたらされる結果である。
それを間倉井医師は受け入れたということか。
後は、完全に脳が機能を失ったと、<脳死>に至ったと判定されれば、治療は終了する。脳死の判定は、医師二名と、メーカーの異なるAI二台による、クアドラプルチェックによって行われる。AIは、メーカーごとにほんのわずかではあるが判定にブレがあり、それを補うために、このような形がとられるのだ。
今はまだかろうじて脳波が検出できるものの、それすらすでに<生きている人間のもの>とは言えないレベルだった。まだ生きている脳細胞が不規則に発するただのノイズのようなものだ。
そしてこれを受けて、間倉井診療所の後任となる医師の選定が始まった。間倉井医師としても、自身に残された時間が少ないことは承知していたので、数年前から準備は行っていたものである。
すると、律進慈医科大の院に研究職として残っていた若い医師が、新たに名乗りを上げてくれた。これで、他の候補と合わせて様々なヒアリングなども行い、最終的に間倉井医師の後任が決まることになる。
本当ならここで奇跡が起こることを願って、そして間倉井医師自身が回復してみせることが望まれているのかもしれないが、そういうことは滅多にないからこそ<奇跡>と呼ばれるのであって、奇跡をあてにした対処など、まっとうな人間がすることではない。本当に奇跡が起こった時にはすべてを白紙にすればいいだけである。
人間はいつか死ぬのだ。そして間倉井医師のそれは、きわめて順当なものであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】悲劇のヒロインぶっているみたいですけれど、よく周りをご覧になって?
珊瑚
恋愛
学園の卒業パーティーで婚約者のオリバーに突然婚約破棄を告げられた公爵令嬢アリシア。男爵令嬢のメアリーをいじめたとかなんとか。でもね、よく周りをご覧下さいませ、誰も貴方の話をまともに受け取っていませんよ。
よくある婚約破棄ざまぁ系を書いてみました。初投稿ですので色々と多めに見ていただけると嬉しいです。
また、些細なことでも感想を下さるととても嬉しいです(*^^*)大切に読ませて頂きますm(_ _)m
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!
黒須
ファンタジー
これは真面目な物語です。
この世界の人間は十二歳になると誰もが天より加護を授かる。加護には様々なクラスやレアリティがあり、どの加護が発現するかは〈加護の儀〉という儀式を受けてみなければわからない。
リンダナ侯爵家嫡男の主人公も十二歳になり〈加護の儀〉を受ける。
そこで授かったのは【MR無責任種付おじさん】という加護だった。
加護のせいで実家を追放された主人公は、デーモンの加護を持つ少女と二人で冒険者になり、金を貯めて風俗店に通う日々をおくる。
そんなある日、勇者が魔王討伐に失敗する。
追い込まれた魔王は全世界に向けて最悪の大呪魔法(だいじゅまほう)ED(イーディー)を放った。
そして人類は子孫を残せなくなる。
あの男以外は!
これは【MR無責任種付おじさん】という加護を授かった男が世界を救う物語である。
後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~
華音 楓
SF
7歳で受けた職業診断によって憧れの狩猟者になれず、リヒテルは失望の淵に立たされていた。
しかし、その冒険心は消えず、立入禁止区域に足を踏み入れ、そこに巣食う機械魔に襲われ、命の危機に晒される。
すると一人の中年男性が颯爽と現れ、魔砲と呼ばれる銃火器を使い、全ての機械魔を駆逐していった。
その姿にあこがれたリヒテルは、男に弟子入りを志願するが、取り合ってもらえない。
しかし、それでも諦められず、それからの日々を修行に明け暮れたのだった。
それから8年後、リヒテルはついに憧れの狩猟者となり、後天的に得た「ブラックスミス」のスキルを駆使し、魔砲を武器にして機械魔と戦い続ける。
《この物語は、スチームパンクの世界観を背景に、リヒテルが機械魔を次々と倒しながら、成長してい物語です》
※お願い
前作、【最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~】からの続編となります
より内容を楽しみたい方は、前作を一度読んでいただければ幸いです
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
強くてニューゲーム!~とある人気実況プレイヤーのVRMMO奮闘記~
邑上主水
SF
数多くの実況プレイヤーがプレイする、剣と魔術のファンタジーVRMMOゲーム、ドラゴンズクロンヌで人気実力ともにNo1実況プレイヤー江戸川 蘭はその人気ぶりから企業からスポンサードされるほどのプレイヤーだったが、現実世界では友達ゼロ、ボッチでコミュ障の高校生だった。
そして、いつものように苦痛の昼休みをじっと耐えていたある日、蘭は憧れのクラスメイトである二ノ宮 鈴に思いがけない言葉をかけられる。
「ドラゴンズクロンヌ、一緒にプレイしてくれないかな?」
これはLV1のキャラクターで知識とテクニックを武器に仮想現実世界を無双していく、とある実況プレイヤーの(リア充になるための)奮闘記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる