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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
安吾、寛慈と面会する
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こうして無事出産は終えたものの、処置はまだ終わらない。
しばらくニーナに抱いてもらっていた寛慈を、
「ごめんなさい。お預かりします」
アリシアがそう言って抱き上げバイタルサイン及び身長・体重を測定、分娩室に入ってきた久美に渡し、久美はそのまま寛慈を<新生児室>へと連れて行った。
さらに、
「申し訳ありません。安吾さん。処置がありますので、外で待っていていただけますか?」
と声を掛ける。
「あ…はい……」
ニーナの出産に立ち会って疲労の色が見えていた安吾は、言われるままに分娩室を出て、待機所の椅子に腰かけた。
「子供を生むって……すげえな……」
呆然としながらそう呟く。と同時に、
『ありがとうな、ニーナ……』
頑張ってくれた自身の伴侶に心の中で感謝の言葉を述べる。もちろんあとで改めて直接また言うつもりだが、そう思ってしまうのだ。
そしてお役御免となった安吾とは逆に、アリシアの役目はむしろこれからが本番だった。
<後産>があるからだ。胎児がいなくなったことで不要になった胎盤が剥がれ、排出されるのである。実はこれも結構辛いものだという。出産そのものに比べればまだマシでも、やっと終わったと思ったらまた腹がギューッと締め付けられうような感覚があり、
『もう勘弁して!』
と思う産婦もいると。とは言えそれもスムーズに終わり、切開した会陰を縫合。出産後の処置を行う。
一方、安吾の方は、
「お父さん、赤ちゃんと面会できますよ」
寛慈の方の処置を終えた久美が、新生児室から出てきて声を掛けてくれた。
ただ、
『こっちはやっぱりなんか気持ち悪いんだよな……』
安吾が<メイトギアアレルギー>なことを知っていることで決して近付くことはしないものの、こうやって離れたところから声を掛けられるだけで何とも言えない違和感は感じられてしまった。あの<アリシア>と呼ばれていた方はまったく平気だったというのに。
ただし、久美も亜美も、過剰に笑顔を浮かべたりということはしないので、その点では安吾もまだ我慢ができていた。メイトギア特有の笑顔を向けられると、ぞわっとしたものが背筋を駆け抜けるのである。
まあでも、今はそうじゃないし、それ以上に我が子の姿を見たいしで、新生児室へと向かう。そして窓越しではあるものの、真っ白な<おくるみ>に包まれて、何とも言えない穏やかな表情で寝ている寛慈の姿に、
『俺……父親になったんだな……』
と強く感じた。そして、
『俺みたいな面倒な奴の子供として生まれさせてごめんな。でも、必ず幸せにするから……『生まれてくるんじゃなかった』とか、思わせないから……!』
そう強く誓ったのだった。
しばらくニーナに抱いてもらっていた寛慈を、
「ごめんなさい。お預かりします」
アリシアがそう言って抱き上げバイタルサイン及び身長・体重を測定、分娩室に入ってきた久美に渡し、久美はそのまま寛慈を<新生児室>へと連れて行った。
さらに、
「申し訳ありません。安吾さん。処置がありますので、外で待っていていただけますか?」
と声を掛ける。
「あ…はい……」
ニーナの出産に立ち会って疲労の色が見えていた安吾は、言われるままに分娩室を出て、待機所の椅子に腰かけた。
「子供を生むって……すげえな……」
呆然としながらそう呟く。と同時に、
『ありがとうな、ニーナ……』
頑張ってくれた自身の伴侶に心の中で感謝の言葉を述べる。もちろんあとで改めて直接また言うつもりだが、そう思ってしまうのだ。
そしてお役御免となった安吾とは逆に、アリシアの役目はむしろこれからが本番だった。
<後産>があるからだ。胎児がいなくなったことで不要になった胎盤が剥がれ、排出されるのである。実はこれも結構辛いものだという。出産そのものに比べればまだマシでも、やっと終わったと思ったらまた腹がギューッと締め付けられうような感覚があり、
『もう勘弁して!』
と思う産婦もいると。とは言えそれもスムーズに終わり、切開した会陰を縫合。出産後の処置を行う。
一方、安吾の方は、
「お父さん、赤ちゃんと面会できますよ」
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ただ、
『こっちはやっぱりなんか気持ち悪いんだよな……』
安吾が<メイトギアアレルギー>なことを知っていることで決して近付くことはしないものの、こうやって離れたところから声を掛けられるだけで何とも言えない違和感は感じられてしまった。あの<アリシア>と呼ばれていた方はまったく平気だったというのに。
ただし、久美も亜美も、過剰に笑顔を浮かべたりということはしないので、その点では安吾もまだ我慢ができていた。メイトギア特有の笑顔を向けられると、ぞわっとしたものが背筋を駆け抜けるのである。
まあでも、今はそうじゃないし、それ以上に我が子の姿を見たいしで、新生児室へと向かう。そして窓越しではあるものの、真っ白な<おくるみ>に包まれて、何とも言えない穏やかな表情で寝ている寛慈の姿に、
『俺……父親になったんだな……』
と強く感じた。そして、
『俺みたいな面倒な奴の子供として生まれさせてごめんな。でも、必ず幸せにするから……『生まれてくるんじゃなかった』とか、思わせないから……!』
そう強く誓ったのだった。
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