573 / 804
ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
間倉井医師、決断する
しおりを挟む
そう。間倉井医師は、自身の命の期限が残り少ないことを察していた。『死にたくない』という気持ちもありつつ、死が避けられないものであることも承知している。けれど、せめてニーナの出産だけは見守りたい。だから、わずかな延命にしかならないかもしれない今回のオペを受けたのだ。
『納得できる最期を迎える』
ために。
そんな間倉井医師に見守られながら、ニーナの出産はいよいよクライマックスを迎えようとしていた。胎児が一気に下りてきたのである。まるで何かを急ごうとするかのように。
「お母さん、赤ちゃんが見えてきましたよ。もう一踏ん張りです!」
膣口から胎児の頭が見え始めて、アリシアはニーナに声を掛ける。ここまで来ると、いかに<無痛分娩>といえどさすがに苦痛もある。最終的に胎児を押し出す力を発揮するためにどうしても必要な痛みなのだ。なので厳密には<無痛>ではなく<減痛>と称するべきものかもしれない。
「パパ…! パパ…! 助けて……!!」
ニーナが思わずそう叫ぶ。とはいえ、安吾自身は彼女の手を握るくらいしかできない。ニーナも頑張っているものの、力を振り絞っているものの、
『マズい……ここで時間が掛かりすぎては……!』
アリシアも、自身が得た分娩に関する詳細なデータで危険を察知する。そしてそれは当然、間倉井医師も承知していた。
「アリシア! 会陰切開!」
「了解!」
指示に従い、アリシアが<会陰切開>を行う。これは、会陰をハサミで切開し膣口を広げることで胎児が出やすくする方法である。しかし、出てこない。すると間倉井医師はすかさず、
「アリシア! 赤ちゃんを押し出しておやり! クリステレル胎児圧出法!」
<クリステレル胎児圧出法>
それは、『母体の胎児を送り出す力が弱い』、『最後の最後で力が出ない』等の場合に医師や助産師が母体の腹を圧迫することで胎児を押し出す方法である。ただし、無理な力を掛けすぎると胎児に障害が残ったり、母体にも子宮破裂、膀胱破裂などのリスクがあるため、安易に行ってはならないとされているものだった。
けれど今は、胎児の脈が低下してきており、危険な状態と判断。まずは外に出すことを優先すべきと間倉井医師が決断したのである。
「了解!」
アリシアは応え、ニーナの腹部に手を添え、センサーをフル稼働して体内の状況と胎児の状況を察知、最適な力加減と力を加える角度を探り出し、『押し出す』と言うよりは『撫でる』かのような絶妙な押し出しを行って見せる。
瞬間、ずるん!と胎児が出てきたのだった。
『納得できる最期を迎える』
ために。
そんな間倉井医師に見守られながら、ニーナの出産はいよいよクライマックスを迎えようとしていた。胎児が一気に下りてきたのである。まるで何かを急ごうとするかのように。
「お母さん、赤ちゃんが見えてきましたよ。もう一踏ん張りです!」
膣口から胎児の頭が見え始めて、アリシアはニーナに声を掛ける。ここまで来ると、いかに<無痛分娩>といえどさすがに苦痛もある。最終的に胎児を押し出す力を発揮するためにどうしても必要な痛みなのだ。なので厳密には<無痛>ではなく<減痛>と称するべきものかもしれない。
「パパ…! パパ…! 助けて……!!」
ニーナが思わずそう叫ぶ。とはいえ、安吾自身は彼女の手を握るくらいしかできない。ニーナも頑張っているものの、力を振り絞っているものの、
『マズい……ここで時間が掛かりすぎては……!』
アリシアも、自身が得た分娩に関する詳細なデータで危険を察知する。そしてそれは当然、間倉井医師も承知していた。
「アリシア! 会陰切開!」
「了解!」
指示に従い、アリシアが<会陰切開>を行う。これは、会陰をハサミで切開し膣口を広げることで胎児が出やすくする方法である。しかし、出てこない。すると間倉井医師はすかさず、
「アリシア! 赤ちゃんを押し出しておやり! クリステレル胎児圧出法!」
<クリステレル胎児圧出法>
それは、『母体の胎児を送り出す力が弱い』、『最後の最後で力が出ない』等の場合に医師や助産師が母体の腹を圧迫することで胎児を押し出す方法である。ただし、無理な力を掛けすぎると胎児に障害が残ったり、母体にも子宮破裂、膀胱破裂などのリスクがあるため、安易に行ってはならないとされているものだった。
けれど今は、胎児の脈が低下してきており、危険な状態と判断。まずは外に出すことを優先すべきと間倉井医師が決断したのである。
「了解!」
アリシアは応え、ニーナの腹部に手を添え、センサーをフル稼働して体内の状況と胎児の状況を察知、最適な力加減と力を加える角度を探り出し、『押し出す』と言うよりは『撫でる』かのような絶妙な押し出しを行って見せる。
瞬間、ずるん!と胎児が出てきたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ジュラシック村
桜小径
SF
ある日、へんな音が村に響いた。
ズシン、ズシン。
巨大なものが村の中を徘徊しているような感じだ。
悲鳴もあちこちから聞こえる。
何が起こった?
引きこもりの私は珍しく部屋の外の様子がとても気になりはじめた。
ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ
京衛武百十
ファンタジー
人の気配が途絶えた世界を、二つの人影が歩いていた。それはどちらも十二歳くらいの少女に見えた。しかし片方はよく見ると人間でないことが分かる。人間に似た外見とメイドを模したデザインを与えられたロボットだった。
ロボットの名前はリリアテレサ。もう一人の少女の名前はリリア・ツヴァイ。
映画に出てくる<ゾンビ>のような動く死体がたまにうろついているその世界で、ロボ娘と少女は当てのない旅を続けるのだった。
ファントム オブ ラース【小説版】
Life up+α
SF
「俺には復讐する権利がある。俺は怪物も人間も大嫌いだ」
※漫画版とは大筋は同じですが、かなり展開が異なります※
アルファポリスの漫画版【https://www.alphapolis.co.jp/manga/729804115/946894419】
pixiv漫画版【https://www.pixiv.net/user/27205017/series/241019】
白いカラスから生み出された1つ目の怪物、ハルミンツは幼い日に酷い暴力を受けたことで他人に憎悪を抱くようになっていた。
暴力で人を遠ざけ、孤独でいようとするハルミンツが仕事で育てたのは一匹の小さなネズミの怪物。暴力だけが全てであるハルミンツから虐待を受けてなお、ネズミは何故か彼に妄信的な愛を注ぐ。
人間が肉体を失って機械化した近未来。怪物たちが収容されたその施設を卒業できるのは、人間の姿に進化した者だけ。
暴力が生み出す負の連鎖の中、生み出された怪物たちは人間に与えられた狭い世界で何を見るのか。
※二部からループものになります
ヒナの国造り
市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。
飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。
モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。
とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。
主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。
スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。
そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。
いったい、寝ている間に何が起きたのか?
彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。
ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。
そして、海斗は海斗であって海斗ではない。
二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。
この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。
(この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話
東岡忠良
青春
二卵性双生児の兄妹、新屋敷竜馬(しんやしきりょうま)と和葉(かずは)は、元女子高の如月(きさらぎ)学園高校へ通うことになった。
今年から共学となったのである。
そこは竜馬が想像していた以上に男子が少なかった。
妹の和葉は学年一位の成績のGカップ美少女だが、思春期のせいか、女性のおっぱいの大きさが気になって仕方がなく、兄竜馬の『おちんちん』も気になって仕方がない。
スポーツ科には新屋敷兄弟と幼稚園からの幼馴染で、長身スポーツ万能Fカップのボーイッシュ少女の三上小夏(みかみこなつ)。
同級生には学年二位でHカップを隠したグラビアアイドル級美人の相生優子(あいおいゆうこ)。
中学からの知り合いの小柄なIカップロリ巨乳の瀬川薫(せがわかおる)。
そして小柄な美少年男子の園田春樹(そのだはるき)。
竜馬の学園生活は、彼らによって刺激的な毎日が待っていた。
新屋敷兄妹中心に繰り広げられる学園コメディーです。
それと『お気に入り』を押して頂けたら、とても励みになります。
よろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる