愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

暴風雨の中、それぞれの時間

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いよいよとなれば安吾にニーナの出産を手伝わせるという選択も視野に入れつつ、

<初産の産婦の出産>

と、

<難治性の遺伝病が原因の大動脈解離のオペ>

という<両面作戦>は続く。診療所の外では、それこそ暴風雨になっていた。風速も二十メートルを超えているという情報が、待機所で何もできない状態でただ待っているだけの秀青しゅうせい立志りっしがそれぞれ手にしている端末にも届く。

「ったく、畑の方もかなりやられるなあ……」

立志は、自分の畑の被害を心配していた。

「そうですね……」

秀青も、これだけの荒天だとそういう被害も心配されるのは知っているので、調子を合わせる。合わせつつも彼の頭の中にあったは、

『昆虫達にも被害が出そうだな……』

ということだった。

それでも、畑や昆虫はともかく、集落としての明帆野あけぼのとしては、この程度なら大きな被害は出ないはずである。そのくらいの対策は施されている。道路の件は本当に間が悪かっただけだ。

間倉井まくらい医師の言う<神>とやらが意地悪したのかもしれないレベルの。

実際、学校の体育館に避難している生徒とその家族に付き添っている安吾も、明帆野あけぼの荘で待つ美月と訓臣のりおみも、曽祖父の弟に当たる宿角すくすみ森厳しんげんの家に来ている結愛ゆなも、そんなに不安は感じていない。建物に異常を感じるような気配がまったくないからだ。特に森厳の家は、伝統的な日本の家屋を思わせる作りでありながら実際には現在の技術で作られた堅牢なそれであり、風速二十メートル程度では不安すら感じない。

一応、防風シャッターは下ろしているが。

外の風雨の音も、結愛が両親と一緒に見ているアニメ映画の音声の邪魔をすることもない。

十分に安全が確保されているのだ。

しかしその一方で、間倉井まくらい診療所では、ギリギリの命の攻防が繰り広げられているのもまた事実。

間倉井まくらい医師の指示の下、久美と亜美が、次々と崩壊を始める血管をやはり次々と修復していく。いつ終わるとも思えない<いたちごっこ>状態だが、ロボットである久美と亜美は泣き言も口にせず疲れも見せず、ひたすら淡々と目の前の状況に対処していく。

ロボットである久美と亜美はそれが当然だとしても、自身の体が次々壊れていくという恐ろしい状況を前にしても、間倉井まくらい医師の精神は折れることはなかった。薬剤で自身の覚醒状態を半ば強引に保ちつつも、途轍もない精神力を見せていただろう。

さらに、同じ診療所内では、ニーナが新しい命を生み出すために奮闘し、千堂アリシアがそのサポートに全力を傾注していたのだった。

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