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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
間倉井医師、覚悟と願望を共に持つ
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百二十年の時を生き、間倉井医師にはある種の満足感があった。
もちろん、死ぬのは怖い。可能であるならもっと生きたいと思う。けれど、人間はいまだ<不老不死>を実現していない。加えて、たとえ死ななくても自分が自分でなくなってしまうのも恐ろしいし、ただ『死ねない』というだけで自ら何かを為すことができなくなるのも恐ろしい。
健康なままこの先も生きられるのが理想だ。しかしそれは現時点では叶わぬ願いに過ぎない。とすれば、今の自分にできることを最大限に果たしたい。
それが、
『辻堂ニーナの出産を無事に終えること』
だ。『それさえ果たせれば死んでもいい』などとドラマのようなことは言わないにしても、少なくともそれを果たさずに死ぬのは嫌だ。
「トリポーネス設置。成功。血管壁補強。ステントA、設置。組成結合、確認。続いてステントB、設置。組成結合、失敗。再度、組成結合試行。成功を確認。トリポーネス除去。除去完了。血管壁回復術式、終了」
久美は、淡々と必要な手順をこなし、最初の患部を安定させた。しかし、
「新たな異常を確認。心臓周辺の血管が連鎖的に崩壊を始めています」
事実をただ告げた。
『そんな……!』
情報を共有している千堂アリシアはそう思うが、表情には出さずに済んだ。今はニーナの出産の補助を行っている真っ最中だ。産婦を不安にさせては話にならない。
千堂アリシアは、あくまで間倉井医師の指示の下で許されている医療行為を行っているだけのロボットに過ぎないが、ニーナからすれば、
<医師>
そのものでもあるだろう。だから目の前の患者に集中し、全力を尽くす。頼りない新米医師のようなものであっても、ニーナは千堂アリシアを頼るしかないのだ。
それに、出産の場合は実際にことに当たるのは産婦自身である。医師や助産師はそれをサポートするだけの存在だ。何らかの異常があればそこから先は医師や助産師の役目だとしても、通常の分娩である限りは、基本、見守るだけだ。
と同時に、安心感を与えるのも役目と言えるか。
すると、ニーナは、
「私と彼が出逢ったのは、中学の時なんですよ……」
そんなことを話し出した。彼女自身、気を紛らわせようとしているのだろう。自然分娩だとそんな余裕もないかもしれないが、無痛分娩なので会話するくらいの気持ちの余裕はある。ただ、余裕があるからこそ不安も感じてしまうのだろう。ならば千堂アリシアはそれに付き合うのみ。
「へえ、そうなんですね♡」
間倉井医師の窮状を久美や亜美と共有しつつも、アリシアは笑顔を崩さなかったのだった。
もちろん、死ぬのは怖い。可能であるならもっと生きたいと思う。けれど、人間はいまだ<不老不死>を実現していない。加えて、たとえ死ななくても自分が自分でなくなってしまうのも恐ろしいし、ただ『死ねない』というだけで自ら何かを為すことができなくなるのも恐ろしい。
健康なままこの先も生きられるのが理想だ。しかしそれは現時点では叶わぬ願いに過ぎない。とすれば、今の自分にできることを最大限に果たしたい。
それが、
『辻堂ニーナの出産を無事に終えること』
だ。『それさえ果たせれば死んでもいい』などとドラマのようなことは言わないにしても、少なくともそれを果たさずに死ぬのは嫌だ。
「トリポーネス設置。成功。血管壁補強。ステントA、設置。組成結合、確認。続いてステントB、設置。組成結合、失敗。再度、組成結合試行。成功を確認。トリポーネス除去。除去完了。血管壁回復術式、終了」
久美は、淡々と必要な手順をこなし、最初の患部を安定させた。しかし、
「新たな異常を確認。心臓周辺の血管が連鎖的に崩壊を始めています」
事実をただ告げた。
『そんな……!』
情報を共有している千堂アリシアはそう思うが、表情には出さずに済んだ。今はニーナの出産の補助を行っている真っ最中だ。産婦を不安にさせては話にならない。
千堂アリシアは、あくまで間倉井医師の指示の下で許されている医療行為を行っているだけのロボットに過ぎないが、ニーナからすれば、
<医師>
そのものでもあるだろう。だから目の前の患者に集中し、全力を尽くす。頼りない新米医師のようなものであっても、ニーナは千堂アリシアを頼るしかないのだ。
それに、出産の場合は実際にことに当たるのは産婦自身である。医師や助産師はそれをサポートするだけの存在だ。何らかの異常があればそこから先は医師や助産師の役目だとしても、通常の分娩である限りは、基本、見守るだけだ。
と同時に、安心感を与えるのも役目と言えるか。
すると、ニーナは、
「私と彼が出逢ったのは、中学の時なんですよ……」
そんなことを話し出した。彼女自身、気を紛らわせようとしているのだろう。自然分娩だとそんな余裕もないかもしれないが、無痛分娩なので会話するくらいの気持ちの余裕はある。ただ、余裕があるからこそ不安も感じてしまうのだろう。ならば千堂アリシアはそれに付き合うのみ。
「へえ、そうなんですね♡」
間倉井医師の窮状を久美や亜美と共有しつつも、アリシアは笑顔を崩さなかったのだった。
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