愛しのアリシア

ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

久美、亜美、千堂アリシア、オペを開始する

「それでは、オペを開始する」

間倉井まくらい医師が、手術用のベッドに横たわったまま、スタンドに固定した二台のタブレットを自身の眼前に提示してもらって、それを見ながら告げた。自らの＜大動脈解離のカテーテル手術＞と＜ニーナの出産＞について同時に久美と亜美に指示を出すことで実際の作業については二体に任せる。

そして、千堂アリシアがリンクしたアリシア2234は、久美のサポートを行う。基本的には器具出しと薬剤の投与だ。この程度なら若干のラグがあっても問題ない。

このまま順調に進めば、新たに医師を手配する必要もない可能性も高い。が、万が一を想定し、千堂は今も医師を探してくれている。もし間倉井まくらい医師が意識を失うようことがあって指示が出せなくなれば、メイトギアだけですべての術式を完遂することはできない。あくまで応急処置までなのだ。

久美は、カテーテルを備えた手術用ロボットとリンクし、＜大動脈解離のオペの術式＞に従って操作する。人間の医師の場合は手で操作することになるが、ナース仕様のメイトギアである久美は手術用ロボットとリンクが可能なのである。

なお、手術用ロボットは、メイトギアやレイバーギアと違い＜自律行動＞はできない。あくまで人間の医師か、人間の医師の指示の下で医療用メイトギア（ナース仕様含む）によって操作しなければ動けない。

人間の身体生命に直接干渉するからこそ、人間の管理下でないと動かせないのだ。

「そうそうそのまま。まずは基本通り」

間倉井まくらい医師が、各種センサーで得られた情報を基に再現された、カテーテルが太腿の血管から差し込まれ自身の血管内を移動する映像を見ながら久美に指示を出す。久美は微動だにせず手術用ロボットの操作に集中する。と、間倉井まくらい医師のバイタルに変化が。血圧が上昇し始めたのだ。

「メティターゼ、二十ミリ静注」

間倉井まくらい医師は慌てることなく血圧を安定させるための薬剤の投与を指示した。

「メティターゼ、二十ミリ静注、了解」

千堂アリシアがリンクしているアリシア2234-LMNが復唱し、薬剤を注射。血圧が安定する。

間倉井まくらい医師に繋がれている各種センサーがもたらすバイタルサインはもちろんのこと、アリシア2234-LMN自身の各種センサーを総動員して千堂アリシアも間倉井まくらい医師の状態を常にモニターしていた。わずかな異常も見落とせないからだ。

一方この時、亜美の方も、

「通常の手順で進めて」

間倉井まくらい医師の指示の下、ニーナの出産に対処していた、

「ニーナ、安心していいからね。私がしっかり赤ん坊を取り上げてあげる」

亜美の口から、間倉井まくらい医師の言葉が発せられたのだった。