愛しのアリシア

ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

ツバキ2308-NS、情報を伝える

この時、当然、間倉井まくらい診療所も雨に包まれていた。

「先生。爆弾低気圧が現在こちらに向けて進んでいるようです。十分な警戒を要します」

＜ツバキ2308-NS（ナース・スタンダード）＞の一体が、ネットを通じて配信されている気象情報を受信し、そう口にした。

「おや、それはまた面倒な。まあ、ここは一応、対策はしてるから大丈夫だとは思うけど」

間倉井まくらい医師が窓の方を見ながら呟く。彼女の言うとおり、この間倉井まくらい診療所は、高潮や津波は当然として、山で万が一土石流が発生したとしてもそれが流れてこない位置に設けられていて、同時に、建物自体がシェルターとしての機能を有しているため、下手に動くよりはここにいた方が安全という施設だった。加えて、もし停電しても建物自体にバッテリーが設置されており発電機も備えている上に備蓄も十分にある。

それに、ツバキ2308-NS自体が大容量のバッテリーを備えているため、もし発電機が故障したとしても建物のバッテリーが失われても数日は電源として利用することもできる。それが二体あるので、救援が駆け付けるまでは十分に持ち堪えることができるだろう。

ロボットにはそういう役目もある。これは自動車や船舶も同じだが。

「風も出てきたねえ……」

間倉井まくらい医師が口にした通り、窓の外では風にあおられた雨が叩き付けるようにして降ってきていた。さらにその先では、風力発電用の風車の柱が折りたたまれていくのも見える。強風に備えてのことだ。

送電については無線式なので、鉄塔の類は存在しない。風力発電が停止したことで、ガスタービンエンジンと蒸気タービンによるハイブリッド発電を行う火力発電所が出力を上げた。

これによりもうライフラインについては心配ない。JAPAN-2ジャパンセカンドのような大都市ほどではなくても、やはりそれなりに備えはされているのだ。三度の大戦を経験したことも影響しているだろう。各家には当然のようにシェルターも備えられている。最低でも一ヶ月はシェルター内で生き延びられるような備えもされている。ロボットには頼らなくても、できる備えはしているのだ。

なので、辻堂つじどうニーナも、

『こっちは大丈夫。心配しないで』

検診用のベッドに横たわりながらも携帯端末で夫の安吾あんごにそうメッセージを送った。

『おう、分かった』

それを受け取り返信した安吾は安吾で、明帆野あけぼの唯一の学校の備えの確認をしていた。現在は長期休業（地球における＜夏休み＞に相当するもの）の真っ最中なので生徒はいないが、自宅が学校の校舎とつながっており、管理者としての役目もあるのだった。